映画「アイスクリームフィーバー」を観た。
世界の中で何かを成し遂げようとか、世界を変えようとか、困っている人々を救おうという話ではない。自分が困っていたり、スランプに陥っていて、そこから脱しようという話でもない。迫りくる危険を回避する訳でも、敵をなぎ倒すわけでもない。
ただ自分がいて、他人がいる。大事なのは自分がどう思うか、そして他人からどう思われるか。金銭や打算ではなく、情緒的な関係だけが描かれる。自分は誰といたいのか、誰といたくないのか。他人とどう関わりたいのか。セックスは?
バラバラに思えた女性たちの物語が、時間と空間の繋がりが徐々に見えてくることでひとつの時系列に収斂していくという作品だが、大して面白くはない。情緒が中心にあって、それが他人との関係に左右されるから、登場人物の誰にも感情移入できずに終わる。
互いに本音を言わず、バリアを張って安全圏を確保する。コンフォートゾーンが一番大切。SNSで盛るのと同じような人間関係だ。何が楽しいのかよくわからない。ベートーベンの第5番がフュージョンみたいな演奏の大音量で流れるのは、現代的かもしれないが、楽しくない。
いつ面白くなるんだろうと思っていたら、特に何事もないまま終わってしまった。登場人物それぞれに得たものと失ったものはある。しかしそれは誰もが日常的に経験していることだ。物語としての力が極端に乏しい。ワクワクもドキドキもなかった。
吉岡里帆をはじめ、役者陣はおしなべて好演。登場人物それぞれの個性を十分に表現していた。しかしどの人物も危機感に欠けている。日常を日常のままに表現するなら映画にしなくてもいい。日常を異化してみせるところに映画の価値がある。ぬるま湯に浸かっている人を映画で観る意味はない。
原作は読んでいないが、短編の小説で読むのには適した物語なのだろう。映画にするには濃さが足りない。悪い作品ではないが、味にパンチがなくて、心を揺さぶられるところがひとつもない。「牛乳を薄めてこしらえたアイスクリーム」みたいだった。