映画「破壊の自然史」を観た。
セルゲイ・ロズニツァ監督の作品はこれまでに4作品、鑑賞した。鑑賞日が最近の順で並べると次のようになる。
「新生ロシア」(2015年製作 2023年1月日本公開)
「バビ・ヤール」(2021年製作 2022年9月日本公開)
「ドンバス」(2018年製作 2022年5月日本公開)
「粛清裁判」(2018年製作 2020年11月日本公開)
どの作品も、同じ映画館での鑑賞である。渋谷のシアター・イメージフォーラムだ。ポレポレ東中野と並んで、問題作品を上映する骨のある単館である。
ロズニツァ監督作品はどれもこれも重くて疲れる作品だから、デートや暇つぶしには不向きである。それなりの好奇心と関心がある人だけが観るのだろうが、観客の中に若い人がいたためしがない。それがちょっと残念である。本作品もやはり渋谷のシアター・イメージフォーラムでの上映で、例によって若い観客はひとりもいなかった。
本作品は空爆を扱っていて、邦題は「破壊の自然史」だが、実際は空爆の真実とでも言うべきシーンの連続だ。第二次大戦時の連合軍によるベルリン空襲と、ナチスによるロンドン大空襲が並べられていて、人々が被った被害の様子を知ることが出来る。道端に並べられた屍体の中から家族を探す女性は、虚ろな表情を浮かべている。悲しみが大きすぎると、人は無表情になったり、ときには笑みを浮かべたりもする。
戦争が被害の原因であるはずなのに、戦争真っ只中の人々はそれを理解していない。ナチの高官が車で訪れるとジークハイルのポーズをしたり、瓦礫の中を歩くチャーチルに握手を求めたりする。勝つことが正義なのだ。
軍用機を製造する連合軍の軍需工場では、階級の高いパイロットが職人たちを褒め称える。私達はかならず勝つ。ドイツ軍の基地では、オーケストラがワグナーの「ニュルンベルクのマイスタージンガー」を演奏する。こちらもマイスター(職人)の心意気を歌い上げる曲である。連合軍もナチも、銃後の人々を鼓舞しているわけだ。その人々が作っているのが大量の爆弾であり爆撃機である。
連合軍のスポークスマンは、ベルリン空爆はまださざ波みたいなもので、アメリカが実験している新型爆弾は大波の威力を持っていると恫喝する。そのためかどうか、ヒトラーは早々と自殺して、ドイツは降伏した。新型爆弾の使い道は、依然として抵抗している日本に向けられることになる。
ラストは廃墟と化した都市の様子を空撮する映像が続く。どこかわからない。川がある場所はもしかしたらヒロシマかもしれない。駅舎がある場所はもしかしたらナガサキかもしれない。映画は説明せず、ただ悲惨さを映し出す。戦争の現実は人間の悲劇でしかない。