三無主義

 ~ディスパレートな日々~   耶馬英彦

映画「バービー」

2023年08月15日 | 映画・舞台・コンサート
 映画「バービー」を観た。
映画『バービー』オフィシャルサイト

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8月11日(金)公開 映画『バービー』公式サイト。世界中に”バービー旋風”で大ヒット!完璧なバービーランドから人間の世界へ――そこで知った驚きの秘密とは!?

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 普通のファンタジー映画ではないが、そんなに大した話でもない。男性社会をストレートに皮肉っているのだが、ストレートすぎてテーマに深みが感じられない憾みがある。
 登場する地図がアジアの何処かの国に似ていると物議を醸しているようだが、観た感じでは、騒ぐほどのことではない。男尊女卑の傾向は、世界中でしぶとく残っている。自国が嗤われたと感じるのは、その人にそういう傾向があるからだ。

 本作品は男尊女卑の社会をコメディとして笑い飛ばしてみせたかったのだろうが、あまり上手くいっていない。男尊女卑は歴史的に人類に刷り込まれた悪しき精神性であり、その根は深い。女性が勝てば解決するという単純な問題ではないのだ。
 ライアン・ゴズリングの振り切った演技も、美貌について悩むセリフをマーゴット・ロビーが言うのは説得力がないという楽屋落ちも、ギャグとしては空振りだった。

 とはいえ、マーゴット・ロビーの演技力は相変わらずピカイチで、リアルバービーという無理矢理な設定を力技で役にしたのには恐れ入る。ライアン・ゴズリングのケンはもっとシッチャカメッチャカな役だったが、バービーの相手役として堂々たる怪演ぶりである。この人は「ラ・ラ・ランド」でブレイクした感はあるが、実力は以前から十分で、どんな役もこなせる万能の俳優としてハリウッドで重宝されていると思う。

「ファシスト」呼ばわりされてバービーがショックを受けるシーンは、シュールではあるがシチュエーションコメディとしては一番面白い場面だった。マーゴット・ロビーは十分に美しかったが、日本人をはじめとする黄色人種から見ると、もち肌や肌理の細かさはない。一瞬で興醒めになる可能性もある。肌のアップのシーンはない方がよかった。

映画「アウシュヴィッツの生還者」

2023年08月15日 | 映画・舞台・コンサート
 映画「アウシュヴィッツの生還者」を観た。
映画『アウシュヴィッツの生還者』公式サイト

映画『アウシュヴィッツの生還者』公式サイト

8月11日(金・祝)新宿武蔵野館ほか公開

映画『アウシュヴィッツの生還者』公式サイト

 選択の機会が与えられると、人は迷ったり、決断に時間がかかったりする。その選択が理不尽な場合は、悩んでも結論が出ない。理不尽な選択の例に漏れず、時間的な猶予はない。考えても答えの出ない選択肢を出され、決断を急かされるのだ。どんな決断をしても後悔することになる。そしてその後悔が一生続く。

 本作品の主人公ヘルツコ・ハフトはアウシュヴィッツ・ビルケナウに強制収容されていた訳で、そんな場所で選択と言われても、出来ることは極端に限られている。理不尽で非人道的な決断を迫られ、そして後悔する羽目になる。

 世の中は理不尽で溢れている。全体主義者が提示する選択肢は理不尽でしかない。たとえば一年生がサボると二年生が三年生にヤキを入れられるシステムの体育会や応援団がある。三年生は一年生に「お前らのせいで二年生が殴られる」と責任を一年生に押し付ける。二年生が殴られるのはちゃんと一年生の面倒を見ていないからだと言う。典型的な論理のすり替えだ。
 殴られるのは殴る人間がいるからだ。誰も殴らなければ、誰も殴られない。責任があるのは殴る人間だから、相応の罰を受けるか、落とし前をつけなければならない。
 殴る理由は、全体のためにどれだけ尽くしたか、努力が足りないのではないかという大義名分だ。完全に全体主義である。こういう思考回路は、ブラック企業、ブラック部活だけでなく、日本全体に蔓延している。個人よりも国家が優先されると国家主義となる。ナチだ。全体主義は個人の尊厳を蹂躙し、ときに人格を破壊してしまう。
 本作品は、ナチに蹂躙されたハフトが長い年月をかけて再生していく物語である。ラストシーンは特に感動的だが、それよりも兄の結婚式で新婦が披露した歌声のあまりの美しさに驚いてしまった。美しい歌に炙り出されるように、ハフトの人生の悲惨さが浮かび上がる。見事な演出である。
 歌手の役の女優が誰かは不明だが、それにしても心地のいい声だった。あの歌を聞くためだけに再度映画を鑑賞してもいいとさえ思う。それほどの美声だった。