映画「猫と、とうさん」を観た。
吉田拓郎は「我が良き友よ」の中で、「男らしいはやさしいことだと言ってくれ」と歌った。本作品でも男らしさに関する言及があって、男らしさとは弱いものを大切にして守ることだと言っている。男らしさという言葉がマッチョイズムを連想させて時代に合わないのなら、強さという言葉に言い換えてもいい。
強さが優しさなら、弱さは憎しみや苛立ちや不寛容だろう。後悔や不安や恐怖も弱さかもしれない。だとすると人間の精神の大部分は、強さよりも弱さで出来ている訳だ。厳しい訓練を重ねている屈強な消防士たちでも、その心は強さよりも圧倒的に弱さが勝っている。
だから猫に癒される。傷ついた心では優しさや強さを発揮できない。猫と触れ合うことで綻びを繕い、勇気を出す。猫との触れ合いには、多少のことで怒らない、挫けないといった、人間の懐を広げる効果もあると思う。
猫は勝手気儘だが、たとえ虐められても、恨みもせず、憎みもせず、愚痴も言わず、弱音も吐かず、淡々と生きる。徒党を組むこともなく、ピンチの際はどんな相手にでもひとりで立ち向かう。遊ぶときは本気で遊び、死ぬときは孤独にひっそりと死ぬ。究極的に自由な存在である。
映画「たまねこ、たまびと」のレビューにも書いたが、猫はやっぱり達人だ。SNSで猫の動画を見かけると、つい見入ってしまうことがある。達人らしいおおらかさと天真爛漫な生き方に清々しさを覚えるのだろう。