映画「SISU 不死身の男」を観た。
ほとんど死語かもしれないが、負けじ魂という言葉がある。本作品の伝説の英雄について語る女たちはSISUという言葉を使う。SISUは日本語の負けじ魂に似ている気がする。しかし決定的な違いは、フィンランドのSISUという言葉は現在でも生きているようだが、日本の負けじ魂は言葉が死語に近いだけでなく、その精神性も絶え果てようとしていることだ。それが悪いことなのかというと、諦めが肝心という言葉もあるし、よくわからない。時代はそんなふうに変わっていくのだろう。
作品中ではナチスが英語で喋っていて、老兵について「inmortal」と言っていた。「mortal」は賛美歌の「Amazing Grace」に「mortal life」という歌詞で出てくる。意味は「限りある人生」だから「inmortal」は不滅という意味なのだろう。本作品の字幕の通り、不死身でもいいと思う。
君子危うきに近寄らずを日常の信条にしている当方としては、本作品の主人公の行動には驚愕するしかない。たしかに、長い間の労苦の末に見つけた金塊である。誰でも取り戻したいと思うが、相手はナチスだ。情けも容赦もない。凡人ならすぐに諦めるところだ。命あっての物種である。ところが本作品の老兵は、ナチスをモノともせずに立ち向かう。恐ろしいほどの忍耐力と意志の強さである。
戦場アクションとしては新しい。主人公が老人というのも珍しいし、ゴア描写が生々しい。しかも敵だけではなく主人公のゴア描写もある。感情移入している分だけ、とても痛そうに感じてしまう。そこらへんが新しいと思う。
フィンランド映画というと、今年公開の「ガール・ピクチャー」や2022年日本公開の「ハッチング-孵化-」、2021年日本公開の「TOVE/トーベ」などを鑑賞したが、いずれも世界観がひと味違う。本作品もこれまで鑑賞した戦場アクション映画のどれとも異なる不思議な味わいがあるし、とにかく痛快だ。おすすめの一本である。