前回の「名物伝-尾道ラーメン」で紹介した朱さんが尾道名物グルメの東の横綱としたら西の横綱はやはり「お好み焼村上」。筆者の偏見の番付であるが、誰もが認めるところではないだろうか。 そのお好み焼き村上は、どこにでもある小さな店である。鉄板を囲んで大人4人が座ったらいっぱいになる。その席の後ろに3人程度が座れる待ち席があり、さらに店外のベンチは猫たちと戯れることもできる特等席になっている。
我々が行ったのがお昼過ぎ、すべての席には人が座り、店先には持ち帰りを含むお客さんの行列ができていた。待っている間、観光客らしき人もいたが地元のお客さんの方が多かったように思う。有名になれば不思議と地元客は遠のくが、ここ村上では地元に愛されているのが伝わってくる。 久しぶりに会う友人とのランチとしてはいささかせせこましいが、話の花を咲かせるには絶好のステージにように思えた。その友人はふるさとUターン組の一人で昨年帰省し、尾道で起業し活躍している。その友人は、お好み焼き村上の息子さん(大阪キタ新地でお好み焼き村上を開業)と幼馴染の同級生とあっていろいろ話を聞かせていただいた。
待ち時間を忘れるほど話が盛り上がっていると声がかかり店内へ。初めて行くお店なので興味津々で見回すと家の一階を店にしたどこにもあるような店だった。60年程前に学校の帰りにいつも立ち寄っていたお好み焼き屋さんを再現したかのようだった。あまりの懐かしさにびっくりしたほどである。 この店が広島焼き(尾道焼)の名物(?)と思わせるものは見つからない。鉄板を前にお好み焼きを慣れた手つきで焼いているのはおばあちゃんと、その横にサポートする女性が一人、ようは二人で切り盛りしている店である。
ご注文は、という声に「尾道焼き」と答えた。友人曰く、一番人気のメニューらしい。関西ではあくまでも「広島焼き」という名称になっているので、あえて「尾道焼き」と表示されていたので気になった。むかしを思い出すと「お好み焼き」といえば、そばかうどんが入っているものと記憶している。
さて、どんなのが尾道焼きなのかを注視していると、広島焼きと変わらないが、鉄板の上に砂ずりが焼かれていた。粉をといたものを鉄板の上に薄くひき、その上に花がつおの削り粉を振りまく。その上に粗目に切られたキャベツを山盛りにのせ、さらにイカ天を手でさいてのせる。その上に、前もって鉄板で炒めていた砂ずりをのせた。 慣れた手つきでコテを操る様子は、さすがの熟練技と思わず見入ってしまった。
子供の頃の記憶では砂ずりを具につかうのは見たことがなったので、おばあちゃん、なぜ砂ずりを具につかうのですか?と。こむずかしい説明がかえってくると思いきや優しい顔で「先代が入れていたので」と。この一言が妙に心に響いた。酸味あるソースがたっぷりと塗られキャベツがざっくりと大きく切られているのでところどころ硬いところも混ざりそれがまたいい食感になる。広島焼きは箸を使わない。鉄板からじかにコテで切り分けながら食べるのである。
ここでは上品さはいらない。コテにのせたお好み焼きをフーフーしながらほうばるのである。これが広島焼きを食べる醍醐味である。
実は、このおばあちゃんは、ご存じの方も多いと思うが、2010年~2011年に放送されたNHKの「連続テレビ小説 てっぱん」のモデルになった女性である。ドラマの内容は、お好み焼き屋を開業することになったヒロイン村上あかりの奮闘を、大阪と広島・尾道を舞台に、笑いと涙で綴る「鉄板繁盛記」。イケズなばあさんから学ぶ“知恵”と“情け”、ガンボな孫娘を通して知る“夢”と“愛”、そして一枚の鉄板がふたりの世界を広げていく、といった筋立てのドラマ。
そのドラマのお陰で、全国的に有名になり一気にお客さんが増えたという。それが今もなお人気のあるお店として定着している。その理由の一番は地元に愛されている “おふくろのお好み焼き” なのかもしれない。飲食店は、なんといっても地元に愛されてこそ継続するもの。 それに加え観光客にとっても尾道を訪れたら一度は食べてみたい村上のお好み焼きになっている。地方の小さな店ではあるが、人を介してよき情報が拡散されていく。
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