稽古が始まるいなや宗匠から、あのお軸に描かれている鳥は何ですか? という質問が私に投げかけられた。
速攻に聞かれても、私の豆知識では答えが出てこない。確か、昨年くらいに見たお軸を思い浮かべた。
あの鳥は"鶉(うずら)"でしょ! と答えたが、宗匠や仲間からの笑いが漏れている。
宗匠から鶉なら季節はいつ頃?という質問が逆に飛んできた。
えぇ〜と、またまた頭を抱え込んだ。大伴家持の、鶉を詠んだ悲哀の和歌を思い出した。
この春に、悲哀はないでしょう、と宗匠に突っ込まれ、そりゃ、そうだ!と納得。
なら、表装の色は何色?
薄いブルーである。
この色から連想すれば分かるでしょ!とさらに突っ込まれた。
春の鳥といえば、この鳥をまず連想しない、と。
ホーホケキョと鳴く鳥は? といわれ、そうか!と。
やっとここで"鶯(うぐいす)"が頭に登場した、情けない話から始まった。
テーマは"鶯"。となると、国語の教科書にも登場した「江南の春」。
もちろん頭からすっかり消え去っている。
ご存知の方も多いと思うが、「杜牧」の詩である。晩唐の政治家であり詩人としても有名だった。
天才詩人と世に知れ渡ったのが20代のとき。26歳で科挙(かきょ)の一つである進士となり、
江蘇省の楊州に赴任した時代には名作を多く残している。その代表作が「江南の春」である。
その詩を宗匠の後に続き朗読。声を出して読むと不思議なものであるが、情景が浮かんでくる。
江南地域の村や山々の古里に酒屋の旗が春風にたなびいている。そこに多くの仏教寺院が点在する。
そして鶯の鳴き声が聞こえてくる。こぬか雨でその風景は霞む。懐かしの古里の風景が想像できる。
千 里 鶯 啼 緑 映 紅
水 村 山 郭 酒 旗 風
南 朝四 百 八 十 寺
多 少 楼 台 煙 雨 中
千里鶯啼いて 緑紅に映ず
水村山郭 酒旗の風
南朝 四百八十寺
多少の楼台 煙雨の中
せんりうぐいすないて みどりくれないに えいず
すいそんさんかく しゅきのかぜ
なんちょう しひゃくはちじゅうじ
たしょうのろうだい えんうのうち
春夜の稽古場で繰り返し朗読した。声を出して読むと不思議と情感が高まってくるものである。
この鶯を見ながら「雁が音」を淹れた。まろやかで優しい、春の味であった。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます