キマグレ競馬・備忘録

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本「天地明察」

2011年04月15日 | Book
日本独自の暦である大和暦を考案した渋川春海の物語。久しぶりに時代小説を読んでみたが、この小説はとても面白かった。
時代小説は戦国期や幕末の動乱期が取り上げられることが多いけれど、この小説の時代設定は、徳川による江戸幕府が始まった後の安定した時期で、武士は今で言う官僚のような身分となり、日々恙無く過ごせば安定した生活を送れるような状況。そんな時代に、人々は習い事を楽しむ風潮となり、算術がもてはやされたりしている。
当時、囲碁は武士の教養として考えられており、幕府の中でも囲碁を打つ家には特別な待遇(武士ではないが)が与えられていた。安井算哲(渋川春海)もその一人だったが、彼の囲碁の力量は相当高かったものの、本人は囲碁衆の小さな世界に飽き飽きしている。勤めは果たすが、自分のライフワークとは考えていない。それよりも好きな算術の趣味に勤しむ毎日を送っている。ある時、神社の絵馬にある算術の問題に心を奪われ、算術の塾に出入りするようになる。そこで天才・関孝和を知り、難問を提示して挑戦するが跳ね返されてしまう。そんな時、日本中を旅して測量を行う事業に誘われる。共に旅をしながら天地を測量する仲間との親交を深め、算術を使って、当時の暦と天文現象のズレを修正した新しい暦を作ることを志す。数年の検証で、正しいことを証明した中国の新しい暦は、6つの日食・月食のうち5つを当てたが、6つ目の予想が大きく外れてしまい、不完全なものであることを暴露してしまう。彼はこの結果に大いに失望するけれど、和算家・関孝和のアドバイスにより、暦そのものに問題があることに気付く。暦の前提が中国の地理に合わせたものであり、日本の地理(緯度)を反映したものではないことが問題の本質であることがわかる。それを修正して朝廷に採用を働きかけるが、政治的な圧力に屈して、他の暦が採用されてしまう。彼は、民意こそが暦の採用の鍵であると考え、朝廷の暦を司る官吏と共に京都で派手なデモンストレーションを行って認知度を高め、遂に朝廷に大和暦の採用を認めさせることになる。
もともと暦には興味があり、以前に海外の暦についての本を読んだことがありますが、日本の暦の歴史については疎かったのでとても勉強になりました。小説は、昨年の本屋大賞の受賞作ということもあり、ストーリー展開も面白くて娯楽度の高い作品だと思います。ストーリー展開としては、最初のほうは緻密な心理描写や背景設定がされているのに、後半はややザックリとした印象になってしまっているように思いました。最後は年表を追うようなやや駆け足のストーリー展開になってしまい、やや物足りなかった。でも日本の暦という地味なテーマでも、充分に楽しませてくれる著者の今後の作品に期待したいです。

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