確信のないコーヒーに何となく手を伸ばして飲んでしまった。ベンチに眠り込んだ先生の姿はどこか新鮮に思えたし、なかなか声をかけにくかった。後になって自分のためのコーヒーだとわかり安心した。
本棚が降りてくるのは終わりの合図のようだった。逃げるように、だけど少し得意げに、キーホルダーのついた紐をぶんぶんと回しながら歩いた。出口の前で腰を下ろしコーヒーを飲み干した。風を受け歩き出すと唇が少し濡れている感じがした。
駐車場ではリモートコントロールされた車が足下を執拗につついてきた。ジャンプしてかわすと車もジャンプしてアタックしてきた。小さな攻撃でも繰り返しあびるとダメージになる。スニーカーも傷みそうだった。すぐ近くにコンビニがあったがそこに避難することは躊躇った。袋の鼠になることが怖かった。僕は走って逃げ出した。街は暗かった。恐ろしい宣言が出たからだ。人魂が飛び交っている。
(くる!)
リモートコントロールしていた親玉が姿を現す予感が走った。僕は橋を渡り切らずに浮遊した。陸よりも川の方に活路を求めた。水よりもじゅんさんの方を恐れた。人気ない古民家の屋根からじゅんさんがぬーっと浮き上がって現れた。わーっ! 加速が違う。瞬く間に距離を詰められた。顔に強烈な圧がある。じゅんさんは更に巨大化した。ああ……。
(インタビューされる!)
「どうやってるの?」
それはテレビショーのパワーだろうか。
「お宅こそどうやってるんですか」
じゅんさんはつっこみながらネタばらしに入った。全部リモートコントロールされていたということだ。
「車がしゃべるわけないでしょ」
「……」
じゅんさんは車がしゃべったと主張した。
落ち着くと足に痛みを覚えた。