入店するや否やマスターはレモンを搾りだした。
「水割りを」
注文すると2人はえっ?という顔をした。マスターと弟子が同時にカクテルを作って差し出した。
「さあ、どっち?」
僕はグラスを2つ受け取ってテーブル席に着いた。大画面でフライデーリーグをやっていたので今日は金曜日だった。客足は鈍く廃れ感が漂っていた。アウェーチームがディフェンスラインを押し上げたので僕はカウンターに席を移った。コの字型カウンターから眺める店の装飾には絵になる題材が多くあるように見えた。
ほんの少し自分がずれることで新たな発見に巡り会うチャンスがある。写真を撮りたいという思いを温めたままグラスを傾けた。マスターは aiko について賛辞を並べた。「でも聴き過ぎるとみんな……」僕が何か言うと少し顔を曇らせた。
マスターは6月号を広げて海外の文化の変化を教えてくれた。それもカクテルに含まれるサービスだった。たまには人の話を直に聞くのもいいものだと思った。
そろそろ使節団がやってくるという。鳥取の人々は例えば道にできた穴を埋める作業に取りかかった。歓迎ムードが生まれつつあるらしかった。