季節に逆らうようにかえってくる冷たい風に、ミリタリーシャツが張りついていた。泣くほどに寒い夜には、仲間とテーブルを囲まなければ耐えられない。行くところと言えば、だいたいいつも決まっている。俺たちの街、愛するものは何も変わらない。
「いらっしゃいませ!
ラスト・オーダーになります」
俺たちは案内も待たずに勝手に好きな席に着く。
「チキラ」
「俺も」
「同じで」
「俺もチキラ」
「一緒で」
「俺も」
「それで」
「はい。チキンラーメン7つ!」
店で一番の人気メニューと言えば、チキンラーメンだ。俺たちはこれを食べて大きくなったと言っても過言ではない。客のほとんどがチキンラーメンを注文する。中にはわざわざ遠方から足を運び、チキンラーメンを注文する客もいるほどだ。
「はい。お待たせ。チキンラーメン」
俺たちのテーブルに、次々とチキンラーメンがやってくる。チキンラーメンの魅力と言えば、その独特なお菓子のような触感の麺、他では真似できないあっさりした中にも旨味のあるスープ。そして、注文してから出てくるまでの驚くべきスピードだった。あの頃から、少しも変わることのない香りに包まれながら、俺たちのテーブルは無言の中に友情を深め合っていくのだろう。
「はい。テイクアウト、チキンラーメン2」
「2丁目林さんちチキンラーメン5」
店の中にチキンラーメンがこだまする。この店の主役は、間違いなくチキンラーメンと言えるだろう。この店に来てチキンラーメンを食わないなんて、そんな馬鹿な真似ができるか。炬燵に入っておいて、みかんを食べないようなものさ。宝箱を手に入れて蓋を開けないようなものさ。花火を用意して火をつけないようなものさ。パンを食べておいて、ご飯は食べてないと言うようなことさ。そんな注文が通るかよベイビー。
「あれ? お前は?」
「まだ」
「言った方がよくない?」
「すみませーん!」
俺は店員を呼んで、確認した。
「はい。チキンラーメン追加で1つ!」
俺のチキンラーメンは少し遅れてやってくる。それはほんの少しのすれ違いのようなものさ。
「俺ら先帰るわ」
「じゃあ、ゆっくり」
食ったら帰る。それが俺たちの流儀だ。
仲間たちが帰った後にようやく俺のチキンラーメンがやってくる。
「お待たせ。チキンラーメン」
「チキラッ♪」
きてくれればいいんだぜ。
待った分だけ箸がぶんぶん進むのさ。
客は一人。俺がまんぷくになった時が閉店だ。