牛になった私の角に鴉がとまっていたのは、カレーを食べて横になってからすぐのことだった。
「こいつが欲しいの?」
「勿論欲しいね」
私たちは翼と角を交換した。憧れの角を手にすると鴉は走り去った。翼をつけてみると、思う以上に小さかった。羽ばたいても少し風になるだけのことだった。助走をつけて……。何度試みても飛べやしない。
(これではランナーだ!)
翼さえあれば空を抱ける。そんな風に夢見た自分が浅はかだった。だけど、あの鴉は何を望んだのだろう。今頃は似たような後悔の中にいるのかも。私は鴉を捜して街を歩いた。
子供たちの賑わいの中心に尖ったものを見つけた。あれは! 私の角が輪投げの的にされている。ギャラリーを押しのけて、私は突進した。
「私のだ!」
「どうしてそう言える?」
私の頭をよく見ればわかりそうなのに。
「つければわかる」
「どうかな」
「それじゃない!」
輪の方ではない。何にでも投げたい年頃のようだ。
「どうだ!」
短い旅を終えて角は私の頭に帰還した。
「確かに君のだ!」
主の元へ戻った角は、もはや引っ張っても離れなかった。
「もう行こうぜ」
「輪投げも飽きたしな」
「タピオカ行こうぜ」
ブームと共に子供たちは去った。あの鴉はどうしているだろう。無事だろうか。私を捜して街をさまよい歩いているかもしれない。だとしても、そう遠くへは行けまい。
(返さなければ)
義務感と、不思議な高揚が纏わりついて離れない。
私は世界で1つだけの幻獣になれたのだ。