メニューというより百科事典のようだった。
「なかなかのもんでしょう」
「ええ」
「1500以上あるんですよ。日々が泡となって創造を広げていくので、新しいカクテルが生まれない日はないのです。だいたいここに来られたお客様は迷います。迷い疲れて帰ってしまう方も少なくないほどです。ああ、また生まれそうな……。お客様の疑り深い瞳が新しいヒントになるようです。野生の何かにも似て……」
全くよくしゃべるマスターだ。
私はメニューを閉じた。迷うために来たのではない。迷いを断ち切るためにやって来たのだ。
「おすすめは?」
「シンガポールスリリング」
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朝焼けの獣と遊歩道を行く
ウィザード街の風景に溶け
(折句「揚げ豆腐」短歌)
快速のゼブラを追ってタップする
地平線までぬり絵天国
(折句「風立ちぬ」短歌)
絵手紙にトトロを添えてシンガポール
9月で200歳になります
(折句「江戸仕草」短歌)
憂鬱が希望の裏にひれ伏した
四重奏の宇宙遊泳
(折句「ユキヒョウ」短歌)
感嘆が過剰な歌を耳につけ
苺をかじる七分袖ジョー
(折句「鏡石」短歌)