
メランコリア
地球に他の惑星が衝突するという設定で映画を作るとします。アメリカですと、大軍団が登場し、山ほどの武器をビュンビュン飛ばして最終的には核爆弾を使用して惑星を爆破してしまうでしょう。その結果、地球が放射能で汚染されたとしてもです。
日本の場合は自発的に何人かの若者が犠牲的精神で家族や恋人に涙で見送られて、惑星めざして突撃する特攻隊もどきの内容になるでしょう。
一方、この監督の考えは全く違います。主人公のジャスティンは少しばかり心を病んでいて自身の結婚披露宴でとんでもない行動をとってしまいます。姉のクレアは内心ハラハラしながらも妹の気持ちを優しく受け止めます。披露宴が終了するとともに夫となったばかりの人が別れて去っていく場面で第1部が終わります。空には見たこともない赤い星が輝いていました。
第2部はひとりではタクシーに乗ることもできないほどの状態になってしまったジャスティンをクレアが自分の屋敷に引き取るところから始まります。その頃には「メランコリア」と名付けられた赤い星は日に日に大きく見えるようになり、地球最後の日が迫ってきました。それが現実となるとジャスティンはなぜか心が解放され食欲も出て元気になっていきます。一方クレアやその夫はとり乱し自滅的な行動を取ってしまいます。そして映画は予想を超えたラストを迎えます。
プロローグの病んだジャスティンの心を表す美しい映像と荘厳な音楽が観客を映画の世界に引き込みます。
すべてを破壊してしまう相手をも静かに受け入れるという強靭で寛容な精神は、目の前の敵は力でねじ伏せるという価値観だけが世界を支配している今こそ人類が取り戻さなければならない魂を救済するものなのではないでしょうか。