「共喰い」 R15 青山真治監督 ×× PPホープ
原作は田中慎弥の芥川賞受賞作です。
昭和63年、17歳の遠馬(菅田将暉)は父(光石研)とその愛人と暮らしています。別れた母(田中裕子)は川のほとりで魚屋を営んでいます。父親には暴力的な性癖があり、遠馬は恋人と神社の神輿倉に隠れて逢うたびに、自分にもその血が流れていることにおびえています。母は元夫の愛人が暴力の犠牲になっていることを知っていて、「最初に私が殺しておけば良かった。」と悔やんでいます。はたして遠馬は血の闇に打ち勝つことができるのでしょうか。
タイトルの「共喰い」を映像で的確に表現した場面は映画ならでは、です。また、ラストの車(ネタバレになるのでどんな車かは秘密)のナンバーが「4122」(良い夫婦)というのはすごいシャレでした。これも映画だから表現できる深い意味ですね。
タバコは、母親役の田中が何回かホープ(PP)を吸います(×)。それだけでなく高校生の遠馬に「吸うか」と勧める場面もあります(×)。遠馬が吸わないというところも時代の変化を表現していました。ホープ、すなわち「希望」を吸うという設定も皮肉ですね。また、昭和時代の地味なタバコの自動販売機が映りました。あの自販機と比べると最近の自販機がいかに広告塔になっているか平成生まれの若者にも理解できるかも。
印象に残った場面は、母親は空襲で左腕の手首がなくしますが、魚屋を営むための特殊な義手を付けています。刑務所の中で訪ねて来た息子に向かって、「戦争を始めたあの家のあの人より先に死ねない。」とつぶやきます。もう一つ、神社の境内から刑事に連行されるとき、血で汚れているため鳥居をくぐりません。でもその前の場面では中庭でタバコを吹かし、境内を汚染させたことには無自覚でした。
そして、川はすべてを飲み込み流して行くのでしょうか。