あまでうす日記

あなたのために毎日お届けする映画、本、音楽、短歌、俳句、狂歌、美術、ふぁっちょん、詩とエッセイの花束です。

佐々木健「ジーズ・フーリッシュ・シングス」展をみて

2013-02-21 10:12:59 | Weblog


茫洋物見遊山記第104回


東京でいちばん美女子が多いといわれる中目黒にあって、もっともお洒落なギャラリー「青山目黒」における作家の2回目の個展です。

2年前の前回は開催中に例の東日本大震災が発生し、会場が大揺れとなった由で心配しましたが、今回は無事に終了しそうでなによりです。

作家はこれまでと同様静物、たとえばブリジストン社のテニスボール、トイレットペーパー、刺繍入りのテーブルクロスなどを異常なまでに直視するなかから、その物に内在する不思議な生命力を、それと企まずに表出しているようです。

会場では日本美術史をゴダールの「映画史」のように総括する不思議なビデオなども今回のテーマ音楽「ジーズ・フーリッシュ・シングス」の数多くの歌手による変奏を交えてオンエアされており、不可思議なBGMとして楽しめます。

会期は23日までですが、お時間のある方はぜひどうぞ。


佐々木健個展概要→http://koten-navi.com/node/24959
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清水宏監督の「有りがたうさん」を見て

2013-02-21 08:20:53 | Weblog


闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.404


原作は伊豆の踊子の川端康成。伊豆の峠道をのんびりと走る乗り合いバスの運転手と乗客たちの交情の物語で、踊り子らしき女性も登場します。

上原謙の運転手はいまどき珍しい気配りの人で、この街道筋の人たち全部が知り合い。行きあう人馬にいちいち丁寧に「ありがとう」の挨拶を残すのでこのタイトルになっている。しかもあちこちで停車して伝言を引き受けたり、東京に身売りしようとするヒロインの女性の運命に胸を痛めたりしているのです。

最後は思いがけないハッピーエンドになりますが、その途中で道路工事に駆りだされている女性の朝鮮人労働者たちが登場して、「道を直すばかりでその道を車で通ったことなんかない」と白いチョゴリ姿で歎くシーンが印象的。1936年当時は朝鮮半島から安倍首相が誇大妄想的に言うように「戸口から首根っこをつかんで引きずり出され」なくとも「強制的に」動員された人々があちこちでこういう労働に従事していたのでしょう。

翌37年の日中戦争を控えて、バスの中の人々の暗い話題と表情も印象的ですが、この映画の隠された主題は反戦・厭戦で、そういう暗い印象をあえて表面的にとりつくろうとした戦略的な「ありがとう」の連呼だったのかもしれません。

いずれにしろかの名匠ルイス・ブニュエルの「昇天峠」を思わせる全篇バスロケーションによるライヴ撮影は、フランス60年代のヌーヴェルヴァーグを20年先取りしているともいえましょう。


エイヤッとばかり切り倒したり三十年待ってもオオムラサキを呼べぬ榎 蝶人
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