音楽千夜一夜第322回
つい最近消滅した英EMI盤によるヴェルディ・オペラ全集35枚組CDを聴き終わりました。
この1枚153円也の超廉価版ボックスセットは、全集ではありませんが、ヴェルディの代表的な16のオペラ作品が収録されているので、彼の記念イヤーにふさわしいコレクションといえましょう。
指揮者の中心はリッカルド・ムーティで、彼の指揮による『ナブッコ』『エルナーニ』『アッティラ』『マクベス』『椿姫』『シチリア島の夕べの祈り』『仮面舞踏会』『運命の力』という8つのオペラ演奏はいずれも聴きごたえがあります。
さらにジュリーニの『ドン・カルロ』、メータの『アイーダ』、レヴァインの『ジョヴァンナ・ダルコ』、パッパーノの『トロヴァトーレ』、そしてモノラル後期の録音からセラフィンの『リゴレット』、サンティーニの『シモン・ボッカネグラ』と、名指揮者の名演奏が続々登場しますが、やはりももっともヴェルディのオペラらしい演奏は、カラヤンの『オテロ』と『ファルスタッフ』でありましょう。
いつも思うことですが、ヴェルディのオペラを初期から最晩年までその作曲年代別に聴いていくと、誰の演奏で、何度聴いても、その音楽世界の濃さと深さが、その順番で高まっていくことが実感されます。
また『マクベス』、『オテロ』『ファルスタッフ』は、いずれもシェークスピアの原作ですが、これほど原作の精神に忠実で、しかもその文学的エッセンスを見事に音化した例はほかにないでしょう。
なにゆえに君は岩を手でつかまなかったのか92年夏のザルツブルクの山で 蝶人