
照る日曇る日第1014回
俳句誌「六花」2号2017年12月号には、「奥村晃作への16の質問」がその回答とともに掲載されていて、これらを通読すると、この偉大な歌人の人柄がおのずと浮かびあがって来るようです。
座右の1首が氏の恩師である宮柊二の
おそらくは知らるるなけむ一兵の生きの有様をまつぶさに遂げむ
であることは、なるほどと頷けますが、好きな芸能人が、マイケル・ジャクソンと美空ひばりという答えには驚かされました。
美空ひばりはともかく、氏がマイケル・ジャクソン!の虜となって、手に入る限りのCD、DVD、書籍を購入し、あまりにも夢中になって体調を崩し、数日間寝込んでしまったという逸話には、氏の若者のような柔軟な感受性と熱情があますところなく体現されているようです。
氏においては、実作よりも短歌和歌の研究が先行したそうですが、「式子内親王論」を書き上げたときには「頭髪がごっそり抜けてしまった」というのですが、それくらいものすごい集中力の持主なのでしょう。
和歌・短歌史を通観するために、「近世和歌研究会」を結成し、当時暗黒状態にあった江戸時代の和歌を徹底的に研究されるなかで「ただごと歌」の先駆者、小沢濾庵との出会いもあったのでしょうか。
歴史の過去を徹底的に精査して、その深部に沈殿した宝玉と遭遇する道行には、かの正岡子規を思わせるところがありますね。
氏が、「心は限りなく深く、韻律は美しくいくら読んでも飽きることがない」と高く評価されている「古今和歌集」を改めて紐解きたくなりました。
氏によれば、1955年に文語短歌に「句跨り」のレトリックを導入した塚本邦雄が、前衛短歌の時代を切り開き、その30年後の1985年に俵万智が塚本に倣って「句跨り」を導入することによって、コロンブスの卵さながらに文語短歌とミックスした「口語短歌」が一挙に成立。
そして俵万智の偉業から30年後の2015年、これまた土岐友浩の「Boothleg」の跨りレトリックによって、「完全な口語短歌」が成立したようです。
一問一答は「旧人のわれらはミックス短歌で終わりますが、今の10代、20代、30代の若い歌人は口語短歌の時代を生きるでありましょう。」と結ばれていますが、果たしてどうなるのか。
いずれにせよ、今年81歳の偉大なる歌人の矍鑠たる歩みからは、当分目が離せません。
タンカーとイージス艦がぶつかればいまのところはタンカーが勝つ 蝶人