蝶人狂言綺語輯&バガテル―そんな私のここだけの話op.277

○姪の成人式を祝う伯母のスピーチ
陽子ちゃん、成人式おめでとう。お父さん、お母さんもおめでとうございます。
*1おばさんはね、普通の姪が成人式を迎えた日の普通のおばさんよりは、きょうずっとずっとうれしいんです。何故っていうとね、それはあなたも知ってのとおり、おばさんはあなたの名付け親だからです。
*2あなたのお母さんはね、長女であるあなたが誕生した時、会社の仕事を続けようか、それとも専業主婦になろうかといろいろ悩んでいました。
この時期の女性ならみんな経験することだけど、心身ともにとてもナーバスになっていたのね。ふだんはとっても元気な人なのに、すっかり落ち込んでいたのよ。
せっかくあなたがこの世に登場しようと意気込んでいたのに失礼しちゃうわね。
それでやっとあなたが生まれて、さてどんな名前にしようかという段になってもやれ四柱推命がどうだの字画がどうだのって、いつまでたっても夫婦でぐちゃぐちゃいってたの。役所に名前を登録する締め切りに遅れそうだったのよ。それで私は、よせばいいのにおせっかいを出したというわけ。
*3むかし平塚雷鳥という女性社会運動家が、雑誌『青鞜』を創刊して女性解放や婦人参政運動に尽力したのね。彼女は、夏目漱石の小説『三四郎』のヒロイン美禰子のモデルと言われていますが、その雷鳥に「元始、女性は太陽であった」という有名な言葉があります。おばさんはこの言葉を母親から聞かされてけっこう感動したことがあるのね。それで思いついたのが『陽子』という名前でした。
*4そうだ、女性って太陽なんだ。太陽のように明るく、元気で、どんな困難にぶち当たってもけっしてめげない前向きな存在になってほしい。陽子ちゃんも、そしてちょっぴり落ち込んでいたあなたのお母さんも、親子ともども元気はつらつ新しい人生を歩んで欲しいーー20年前そんな思いを込めてあなたの名前が誕生したのです。
陽子ちゃん、これからも陽子らしくのびのび生きてください。おばちゃんはいつもあなたを見守っているわ。
○スピーチのポイント
①②サプライズ発言を行うときは、周りの人を傷つけるないようによく注意し、事前に必要な了解を取っておきましょう。
③名前の由来を明かすところが、このスピーチのハイライト。当事者には周知の事実でも、第三者には初めての話題が意外な感銘を呼ぶことがあるものです。
④エピソードを生かして、明るく元気な結びにしましょう。
「コッチコイ」と呼ぶからそっと近寄るとバタバタ逃げだすコジュケイ一家 蝶人