あまでうす日記

あなたのために毎日お届けする映画、本、音楽、短歌、俳句、狂歌、美術、ふぁっちょん、詩とエッセイの花束です。

高橋順子著「夫、車谷長吉」を読んで

2017-12-14 11:00:48 | Weblog


照る日曇る日第1016回




車谷長吉に「純愛物語」という作品があるそうだが、これは亡き夫の3周忌に霊前にささげられた妻、高橋順子による献身の「純愛物語」で、涙なしには読めない、見事な見事な大人の恋の物語であります。

当時43歳の長吉選手は、遠くから一目ぼれした44歳の順子さんに手書きの絵入はがきを1988年9月以来、全部で11通送りつけるのですが、その詞と絵が混然一体となった詩的な絵葉書が素敵です。彼は平安時代の貴族のごとき古式豊かなスタイルで、憧れの思ひびとへの接近を図ろうとしたのでありませう。

最後の絵手紙が届いてからも、じつにさまざまな事件があいつぐのですが、ついに男の妄想執念が通じたようで、女は、遠く離れて出家しようする男に向って、「この期に及んで、あなたのことを好きになってしまいました」と告白するのです。

その手紙に対する男の「もし、こなな男でよければ、どうかこの世のみちずれにして下され。お願いいたします。私はいま、このように記し了えて、慄えております」という赤裸の返信が胸を打ちます。

かくて運命の糸に結ばれた彼らは、長吉48歳、順子49歳の1993年の秋に結婚し、驚天動地、天波乱万丈の同行2人の道行きは、2015年5月17日の日耀日まで、およそ21年に亘って続くのです。

が、新書館から待望の全集を出したあとの車谷長吉の最期の日々は、もう死を願っていたとしか思えません。愛妻の献身的な支えあればこそ、なんとかその日まで生き永らえることができたのでせう。

 なんでもかでもマイウーと叫んでいる君 たまにはマズイというてみよ 蝶人

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