蝶人狂言綺語&バガテル―そんな私のここだけの話 第416回
- 友人の開店祝いでのスピーチ
寺尾といいます。*1
鎌倉街道沿いに不思議な店を作ったから、ちょいとのぞきに来ないか、と竹内君が誘うんで、今日ぶらりとここへやってきました。竹内君、お久し振りです。*2
このたびはウクレレ・ショップ「カメハメハ」新装開店おめでとう。ズラリ並んだ新旧のウクレレ、ハワイ特産の椰子、パイナップル、現地の漁師が織った亜麻布そしてハワイアンコーヒー――こんな素敵なお店をいつのまに準備したのか、いやあ、びっくりしました。
皆さん、われわれはね、ちょうど2年前、仲良く会社からリストラされたんです。いま最もトレンディな「リストラ友だち」なんです。*3
会社を首になる直前まで、もしホームレスになるとしたら上野がいいか新宿がいいか、毎日のように非常に突っ込んだ議論をしていました。
「上野は不忍池の水が使えるけど、新宿はその点いまいちだ」、「いや週刊誌の回収販売の便宜という点では新宿に軍配があがるよ」「でも上野公園では毎週オームの親戚みたいな宗教団体がスープを配布してくれるよ」「将来性という点では、大宮公園のトイレの傍が結構穴場だと思うよ」なんて、実際に現地視察したりしながら最悪のケースに備えていました。
お互い青い顔してひそひそ情報交換したり身の振り方を相談したりただならぬ仲だったんですよ。*4
その折、竹内君はたしかこうも言ってました。「俺は、人生最後のかけをやる。全財産を持ってバリ島へ行って現地の家具を買い付けていま流行りのアジアン・インテリアショップを開くんだ」と。
それがまあ、どういう風の吹き回しでウクレレの製造即売ショップに変身したのか、僕にはよく理解できません。しかし、彼は高校時代は軽音楽部でサックスもギターもドラムスも何でもござれの名プレーヤーでした。
ウクレレで♪小さな竹の橋の上でなんて曲を演奏するのは、オチャノコサイサイでした。「芸は身を助く」というのはこのことかも知れませんね。ともかく僕としてはこの「カメハメハ」がうまく行ってくれることを心からお祈りしています。
- アドバイス
- 1 最近失業率の増大とともに増加しているリストラされた元中高年サラリーマンの友愛と再生の物語である。全体の叙述はかなり即興的だが、話者の人柄と話題が面白いのでつい引き込まれる。
- 2 固い友情に結ばれているせいか、ザックバランの語り口である。文例では、一人称の表現がきちんと統一されていないが、ちゃんとした場面では「私」に統一すること。
- 3 この部分が妙にリアルなのは、かなり実話に近いからであろう。一日も早くこのような話材が消滅する日が訪れてほしいものである。
- 4 最近、都会ではアジアの雰囲気豊かなレストランや家具・インテリアの店が大人気である。竹内さんの再出発の狙いは悪くない。
チョットコイ小綬鶏に呼ばれて庭見れば一輪の紅梅朝日に耀う 蝶人