照る日曇る日 第1149回
あとがきで塚本邦雄は、冗談か本気か「天才、超人」と崇め奉り、穂村弘は「魔術師」呼ばわりしているが、果たしてそれほど物凄い歌人と歌であるか、わたくしには甚だ疑問である。
確かにアララギの伝統から大きく逸脱し、みじんも「私」や「私生活」を詠まずに「劇化された私」や虚構世界を想像・創造しようと努めてはいるが、その現実からの飛躍度は、他ならぬ塚本に比べたら僅かなものであり、特に「初期歌篇」などは、青森という特権的な場所の自然や文化に根ざした異色の青春譜と評すべきものだろう。
舞台が都会に移って「空には本」「血と麦」「テーブルの上の荒野」においてもその様相に格別の変化は感じられないが、そんな中に在って圧倒的に素晴らしいのは、代表作「田園に死す」の最後におかれた8つの「新・病草紙」、5つの「新・餓鬼草紙」の詩編である。
この「今昔物語」&「伊勢物語」の超現代版のようなカオスを原泉として、著者の詩魂は、演劇、映画など各方位に向って全面展開していったのだろう。
塚本は絢爛豪華なシェヘラザード寺山は恐山に鳴るグリーグの抒情小曲 蝶人