昨日、CPC(臨床病理検討会)を開催した。治療に難渋した症例で、診断にも苦慮した。主たる病態は血管内皮細胞傷害で、これに基づく全身症状が死因と結論づけられた。血管とは全身くまなく巡って、ほとんど全ての細胞に栄養と酸素を供給している管だ。この血管に傷害がもたらされたら、当然のことながら全身に影響が出現する。こういう重篤な病態を、どのようにして早期に発見して治療に結びつけるかが議論の中心となった。

この血管、水道管の様なただの管ではなくて、その裏側は内皮細胞という薄い膜によって裏打ちされている。この内皮細胞の役割は多岐にわたっているが、これを傷害する因子があれば全身もしくは局所に様々な変化が起きる。代表的なのは、腎臓の糸球体という毛細血管の塊に多数の血栓が形成される血栓性微小血管症で、腎機能不全を呈する。傷害因子のターゲットは血管内皮細胞だから、結果として全身の血管に大なり小なり障害を生じる。結論が出たといっても、その機序は複雑かつ広汎なので、ピンポイントである様で、大雑把でもある。
新型コロナウイルス感染症でもSARS-CoV-2が血管内皮細胞傷害を惹き起こすことが、新型コロナ感染で亡くなった方の病理解剖の報告でわかってきた。喫煙者、高血圧、糖尿病、心不全などの”基礎疾患”を有する人は血管内皮細胞が若者よりも弱いので、傷害を受け易いということだろう。基礎疾患がなくても、若者より加齢性変化を伴っている老人の方が重篤な傷害を受ける可能性は高い。若い人は感染しても重症化しないのは血管が若いからという言い方もできる。一部の人が”ただの風邪”と言っているが、これはあながち嘘ではない。コロナは若くて健康な人までは巻き込まないのだから、”若い人にとっては”ただの風邪と言えるかもしれない。ただ、若い人すべてが内皮細胞が健康かどうかはわからないし、”たまたま”内皮細胞傷害が増悪してしまうということもあるだろうから、うつされないに越したことはない。

そう考えると若者と年長者は切り離すというのもコロナ対策の一つの手法となりうる様にも思う。実際、ワクチンを受けるまで家に引きこもっていたというお年寄りはたくさんいる。若者の間に年長者は入っていかなければいいのだが、病院などは若い人の力で支えられているわけで、完全に分離することは困難だ。となると、老人と接する機会の多い若者には老人との接触機会をなるべく減らしてもらうしかないし、われわれ年長者はなるべく若者を遠ざけるしかない。少々寂しい気もするが、ベネフィットが上回るのであれば今後もそうすることが最善の策ということになる。
年寄りは自己管理