今の病院に病理医は私一人しかいない。非常勤で月に数回非常勤の先生が来てくれるが、ほとんどの時間は一人で仕事をしている。
病理医だからといって、すべての臓器のすべての疾患に精通することはできない。むしろ専門分野は細分化されていて、専門外の疾患の診断は難しい。これまでの病理医人生でたった一人というのは初めてだ。これまではどこかに相談できる先輩や同僚がいたし、頼りになる後輩は新知見を教えてくれたが、今はすべてを自分で片付けなくてはいけない。他施設間の病理医で意見を交換するというのは日常的なことで、私のところにも時たまガラス標本が送られてくる。
臨床医であれば、患者さんがどこそこの大学病院の大家の先生に紹介されて診ていただくとなったら、それは大変なことだ。だが病理医の場合、ガラス標本がぎっしりと詰まった標本ケースが送られてくるだけ。七転八倒して診断をつけ、返事をしても、ろくなレスポンスがこないこともあり、がっかりさせられる。それはそれでお互い様だから、あまり深く考えない。でも、反応が今ひとつなのは意見が異なるからなのかと考えると、これまた心配になる。
病理診断には必ずどこか落としどころがある。もちろんそれは患者さんにとって有益なものでなくてはならない。適切な病状把握と治療方針の決定が、病理医による正確な診断によってもたらされなくてはならない。
一人で病理医をやっているとそんなことを考えながら毎日を送っている。
自ら選んだ道