そもそも税金講座⑨ 税滞納の大半は消費税 生存権守る「処分の執行停止」
国税の2010年度末滞納残高は、1兆5264億円。うち消費税は5320億円で、滞納額の35%を占めています。新規発生の滞納額に占める消費税の割合は55%です。滞納者の大半は消費税を価格に転嫁できない小企業です。(グラフ)
納税者が租税を納期限までに完納しない場合、税務官署は、裁判所の手を借りずに自らの手で強制的に租税を徴収します。国税通則法では、納税者が納期限までに国税を完納しない場合、原則として納期限から50日以内に督促状により納付督促を行うことになっています(37条)。
違憲の捜査規定
督促後に納付がなければ滞納処分に進みます。国税徴収法は、「滞納者が督促を受け、その督促に係る国税をその督促状を発した日から起算して10日を経過した日までに完納しないとき」には財産を差し押さえると規定しています。
滞納処分は、大きく分けて、差し押さえ、公売、公売代金の配当の3段階からなります。
国税庁は、滞納整理方針として消費税事案の優先処理を掲げています。そのために、賦課・徴収部門が連携して、ポスター・広報誌などによる宣伝、国・地方自治体での入札参加審査における消費税の納税証明書の提示、金融機関への消費税積立預金の推進などを展開しています。
滞納者に対する徴収は厳しく行われます。犯罪容疑者について、差し押さえ・捜索が必要であれば、刑事訴訟法に基づく令状主義の原則があります(218条)。しかし、国税徴収法では、滞納処分のために必要があれば、職員は必要の範囲で質問し、また財産を調べるために住居に立ち入って捜査ができることとしています(142条)。令状なしに、身分証明書を示しただけで納税者宅に無遠慮に入り込み、家捜しをします。これでも合法だというのです。
憲法第31条は「何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若(も)しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない」と定めています。「法定手続の保障」は、公権力による人権侵害の行使に歯止めをかけるための定めです。この憲法第31条に、国税徴収法の捜査規定は違反しています。
多くの小企業は、滞納で苦しんでいます。これらの事業者の生存権を保障する規定としては、「滞納処分の執行停止」があります。
滞納処分の執行停止は、納税者に滞納処分の対象となる財産がないか、滞納処分の執行によって滞納者の生活を著しく窮迫させるおそれがある場合に適用されます(国税徴収法153条=別項、地方税法15条の7など)。停止した租税は、一定の要件のもとで納税義務が消滅します。
滞納処分の停止は、税務署長(地方団体の長を含む)の職権に基づくものですが、滞納処分の停止をするかどうかは、税務署長の判断(裁量)にまかされているわけではありません。
滞納処分の執行停止の請求権は生存権に基づく納税者の権利であり、滞納処分の執行停止は税務署長の義務です。
原則は応能負担
滞納原因の多くは、負担能力に応じて納税するという応能負担原則を考慮しない現行税制のあり方にあります。滞納整理額(総額8481億円のうち消費税は4451億円)の中には、執行停止額が多く含まれています。
小企業は、所得の少ない人ほど重い負担になる逆進性の強い消費税の被害を受けています。その生存権を守るために、執行停止の権利をかちとるなら、倒産せずに、生き延びる可能性が出てくるのです。
【国税徴収法153条(滞納処分の停止の要件等)】
第153条
① 税務署長は、滞納者につき次の各号の一に該当する事実があると認めるときは、滞納処分の執行を停止することができる。
一 滞納処分を執行することができる財産がないとき。
二 滞納処分を執行することによってその生活を著しく窮迫させるおそれがあるとき。
三 その所在及び滞納処分を執行することができる財産がともに不明であるとき。
② 税務署長は、前項の規定により滞納処分の執行を停止したときには、その旨を滞納者に通知しなければならない。
③ 税務署長は、第1項第21号の規定により滞納処分の執行を停止した場合において、その停止に係る国税について差し押えた財産があるときは、その差押を解除しなければならない。
④ 第1項の規定により滞納処分の執行を停止した国税を納付する義務は、その執行の停止が3年間継続したときは、消滅する。
⑤ 第1項第1号の規定により滞納処分の執行を停止した場合において、その国税が限定承認に係るものであるとき、その他その国税を徴収することができないことが明らかであるときは、税務署長は、前項の規定にかかわらず、その国税を納付する義務を直ちに消滅させることができる。
「しんぶん赤旗」日曜版 2012年6月17日付掲載
税の滞納処分の執行停止する要件に、「滞納処分を執行することができる財産がないとき。滞納処分を執行することによってその生活を著しく窮迫させるおそれがあるとき」ということは、応能負担の原則に沿って当然のことでしょうね。
所得税や企業の税金の場合は、もともと累進で課税されるのだから滞納は少ないと思いますが、消費税の場合は赤字企業も課税されます。
売上価格に消費税を転嫁できずに困っていいる企業ほど赤字の場合が多いのですから深刻です。
最後の「命の砦」として「滞納処分の執行停止」を活用しないといけないのですね。
国税の2010年度末滞納残高は、1兆5264億円。うち消費税は5320億円で、滞納額の35%を占めています。新規発生の滞納額に占める消費税の割合は55%です。滞納者の大半は消費税を価格に転嫁できない小企業です。(グラフ)
納税者が租税を納期限までに完納しない場合、税務官署は、裁判所の手を借りずに自らの手で強制的に租税を徴収します。国税通則法では、納税者が納期限までに国税を完納しない場合、原則として納期限から50日以内に督促状により納付督促を行うことになっています(37条)。
違憲の捜査規定
督促後に納付がなければ滞納処分に進みます。国税徴収法は、「滞納者が督促を受け、その督促に係る国税をその督促状を発した日から起算して10日を経過した日までに完納しないとき」には財産を差し押さえると規定しています。
滞納処分は、大きく分けて、差し押さえ、公売、公売代金の配当の3段階からなります。
国税庁は、滞納整理方針として消費税事案の優先処理を掲げています。そのために、賦課・徴収部門が連携して、ポスター・広報誌などによる宣伝、国・地方自治体での入札参加審査における消費税の納税証明書の提示、金融機関への消費税積立預金の推進などを展開しています。
滞納者に対する徴収は厳しく行われます。犯罪容疑者について、差し押さえ・捜索が必要であれば、刑事訴訟法に基づく令状主義の原則があります(218条)。しかし、国税徴収法では、滞納処分のために必要があれば、職員は必要の範囲で質問し、また財産を調べるために住居に立ち入って捜査ができることとしています(142条)。令状なしに、身分証明書を示しただけで納税者宅に無遠慮に入り込み、家捜しをします。これでも合法だというのです。
憲法第31条は「何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若(も)しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない」と定めています。「法定手続の保障」は、公権力による人権侵害の行使に歯止めをかけるための定めです。この憲法第31条に、国税徴収法の捜査規定は違反しています。
多くの小企業は、滞納で苦しんでいます。これらの事業者の生存権を保障する規定としては、「滞納処分の執行停止」があります。
滞納処分の執行停止は、納税者に滞納処分の対象となる財産がないか、滞納処分の執行によって滞納者の生活を著しく窮迫させるおそれがある場合に適用されます(国税徴収法153条=別項、地方税法15条の7など)。停止した租税は、一定の要件のもとで納税義務が消滅します。
滞納処分の停止は、税務署長(地方団体の長を含む)の職権に基づくものですが、滞納処分の停止をするかどうかは、税務署長の判断(裁量)にまかされているわけではありません。
滞納処分の執行停止の請求権は生存権に基づく納税者の権利であり、滞納処分の執行停止は税務署長の義務です。
原則は応能負担
滞納原因の多くは、負担能力に応じて納税するという応能負担原則を考慮しない現行税制のあり方にあります。滞納整理額(総額8481億円のうち消費税は4451億円)の中には、執行停止額が多く含まれています。
小企業は、所得の少ない人ほど重い負担になる逆進性の強い消費税の被害を受けています。その生存権を守るために、執行停止の権利をかちとるなら、倒産せずに、生き延びる可能性が出てくるのです。
【国税徴収法153条(滞納処分の停止の要件等)】
第153条
① 税務署長は、滞納者につき次の各号の一に該当する事実があると認めるときは、滞納処分の執行を停止することができる。
一 滞納処分を執行することができる財産がないとき。
二 滞納処分を執行することによってその生活を著しく窮迫させるおそれがあるとき。
三 その所在及び滞納処分を執行することができる財産がともに不明であるとき。
② 税務署長は、前項の規定により滞納処分の執行を停止したときには、その旨を滞納者に通知しなければならない。
③ 税務署長は、第1項第21号の規定により滞納処分の執行を停止した場合において、その停止に係る国税について差し押えた財産があるときは、その差押を解除しなければならない。
④ 第1項の規定により滞納処分の執行を停止した国税を納付する義務は、その執行の停止が3年間継続したときは、消滅する。
⑤ 第1項第1号の規定により滞納処分の執行を停止した場合において、その国税が限定承認に係るものであるとき、その他その国税を徴収することができないことが明らかであるときは、税務署長は、前項の規定にかかわらず、その国税を納付する義務を直ちに消滅させることができる。
「しんぶん赤旗」日曜版 2012年6月17日付掲載
税の滞納処分の執行停止する要件に、「滞納処分を執行することができる財産がないとき。滞納処分を執行することによってその生活を著しく窮迫させるおそれがあるとき」ということは、応能負担の原則に沿って当然のことでしょうね。
所得税や企業の税金の場合は、もともと累進で課税されるのだから滞納は少ないと思いますが、消費税の場合は赤字企業も課税されます。
売上価格に消費税を転嫁できずに困っていいる企業ほど赤字の場合が多いのですから深刻です。
最後の「命の砦」として「滞納処分の執行停止」を活用しないといけないのですね。