大企業主役TPP① 急ぐ米国 強硬姿勢
シンガポールで22~25日開かれた環太平洋連携協定(TPP)交渉の閣僚会合は、「最後の閣僚会合」を目指したものの、「大筋合意」に至りませんでした。注目された日本と米国の関税交渉は決着しませんでしたが、全品目の関税撤廃を求める米国の強硬姿勢の前に、日本の農産物重要5項目(米、麦、牛・豚肉、乳製品、砂糖)さえ危うくなっている現状が明らかになりました。(北川俊文)
今回の会合で特に注目されたのは、日米の関税交渉と米国の大統領貿易促進権限(TPA)の行方でした。
関税交渉は2国間で行われています。自国の提案と相手国への要求を互いに交換し、すり合わせを繰り返します。
譲歩迫る財界
日米交渉では、米国は農産物重要5項目を含む関税撤廃を求めて譲りませんでした。会合直前、米上院の与野党議員16人がフロマン米通商代表へ書簡を送り、日本に対して関税撤廃の例外を認めないよう求めました。米国は、今年後半の中間選挙を意識し、早期妥結を急いでいます。そのため、日本の譲歩を引き出そうと圧力を強めているのです。
日本政府は、「守るべきは守る」と言いながら、5項目の中から一部品目を関税撤廃・削減の対象にする譲歩案を検討しています。
甘利明TPP担当相は18日、「5項目中の品目が一つ残らず微動だにしないということでは交渉にならない」と述べました。自民党幹部からも、この考えを容認する発言が相次ぎました。
日本の財界3団体は安倍晋三首相に対し、「守るべき分野を核心部分に絞り込む」ことを含め「柔軟に対応」するよう求めました。妥結のためなら、5項目で譲歩してでも、米国の要求に応じるよう迫ったのです。
衆参両院の農林水産委員会決議は、「農林水産分野の重要5品目などの聖域の確保を最優先し、それが確保できないと判断した場合は、脱退も辞さない」としています。政府が国会決議を踏まえるというのなら、米国政府や日本財界のいいなりに譲歩を重ねるTPP交渉を続けることは許されません。
環太平洋連携協定(TPP)交渉の閣僚会合後、記者会見する甘利明TPP担当相(左)、フロマン米通商代表部(USTR)代表(左から2人目)、シンガポールのリム通産相(右から2人目)=2月25日、シンガポール(AFP時事)
TPAなしで
米国では、通商権限は議会にあります。その議会が大統領に指針を与えて交渉を委ねるのが貿易促進権限(TPA)です。TPAを与えた場合、議会は結ばれた協定の修正や再交渉を求めることはできず、承認か否認かの判断だけを下します。
上下両院の超党派の議員が1月、大統領にTPAを与える法案を提出しました。他の交渉国の懸念を払しょくし、交渉を促進するためです。
しかし、TPA法案には慎重論や反対論が多く、成立に見通しが立っていません。与党民主党のリード上院院内総務とペロシ下院院内総務が反対を明言しており、与党議員の約7割が反対しているとも伝えられます。
TPAの成否が不確かでは、交渉が妥結しても、それが最終的な協定になる保証がありません。フロマン米通商代表でさえ、「TPAがなければ、(協定を)相手国と交渉できないし、ここ米国で実施できない」(米ワシントンポスト紙<電子版>19日付)と述べています。
会合直前の20日、マレーシア通産省が発表した資料は、「交渉妥結は米国のTPA獲得にかかっている」と指摘しています。会合でも、多くの国がTPAの見通しに強い関心を示しましたが、米国側は明確に回答できませんでした。
しかし、日本は、TPAなしでも、圧力を強める米国の前に、重要5項目の一部品目を明け渡す譲歩案を検討しているのです。
(つづく)(3回連載の予定です)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2014年2月27日付掲載
国会決議の「農林水産分野の重要5品目などの聖域の確保を最優先し、それが確保できないと判断した場合は、脱退も辞さない」を踏みにじって、財界や米国の要求を呑むことは許されませんね。
シンガポールで22~25日開かれた環太平洋連携協定(TPP)交渉の閣僚会合は、「最後の閣僚会合」を目指したものの、「大筋合意」に至りませんでした。注目された日本と米国の関税交渉は決着しませんでしたが、全品目の関税撤廃を求める米国の強硬姿勢の前に、日本の農産物重要5項目(米、麦、牛・豚肉、乳製品、砂糖)さえ危うくなっている現状が明らかになりました。(北川俊文)
今回の会合で特に注目されたのは、日米の関税交渉と米国の大統領貿易促進権限(TPA)の行方でした。
関税交渉は2国間で行われています。自国の提案と相手国への要求を互いに交換し、すり合わせを繰り返します。
譲歩迫る財界
日米交渉では、米国は農産物重要5項目を含む関税撤廃を求めて譲りませんでした。会合直前、米上院の与野党議員16人がフロマン米通商代表へ書簡を送り、日本に対して関税撤廃の例外を認めないよう求めました。米国は、今年後半の中間選挙を意識し、早期妥結を急いでいます。そのため、日本の譲歩を引き出そうと圧力を強めているのです。
日本政府は、「守るべきは守る」と言いながら、5項目の中から一部品目を関税撤廃・削減の対象にする譲歩案を検討しています。
甘利明TPP担当相は18日、「5項目中の品目が一つ残らず微動だにしないということでは交渉にならない」と述べました。自民党幹部からも、この考えを容認する発言が相次ぎました。
日本の財界3団体は安倍晋三首相に対し、「守るべき分野を核心部分に絞り込む」ことを含め「柔軟に対応」するよう求めました。妥結のためなら、5項目で譲歩してでも、米国の要求に応じるよう迫ったのです。
衆参両院の農林水産委員会決議は、「農林水産分野の重要5品目などの聖域の確保を最優先し、それが確保できないと判断した場合は、脱退も辞さない」としています。政府が国会決議を踏まえるというのなら、米国政府や日本財界のいいなりに譲歩を重ねるTPP交渉を続けることは許されません。
環太平洋連携協定(TPP)交渉の閣僚会合後、記者会見する甘利明TPP担当相(左)、フロマン米通商代表部(USTR)代表(左から2人目)、シンガポールのリム通産相(右から2人目)=2月25日、シンガポール(AFP時事)
TPAなしで
米国では、通商権限は議会にあります。その議会が大統領に指針を与えて交渉を委ねるのが貿易促進権限(TPA)です。TPAを与えた場合、議会は結ばれた協定の修正や再交渉を求めることはできず、承認か否認かの判断だけを下します。
上下両院の超党派の議員が1月、大統領にTPAを与える法案を提出しました。他の交渉国の懸念を払しょくし、交渉を促進するためです。
しかし、TPA法案には慎重論や反対論が多く、成立に見通しが立っていません。与党民主党のリード上院院内総務とペロシ下院院内総務が反対を明言しており、与党議員の約7割が反対しているとも伝えられます。
TPAの成否が不確かでは、交渉が妥結しても、それが最終的な協定になる保証がありません。フロマン米通商代表でさえ、「TPAがなければ、(協定を)相手国と交渉できないし、ここ米国で実施できない」(米ワシントンポスト紙<電子版>19日付)と述べています。
会合直前の20日、マレーシア通産省が発表した資料は、「交渉妥結は米国のTPA獲得にかかっている」と指摘しています。会合でも、多くの国がTPAの見通しに強い関心を示しましたが、米国側は明確に回答できませんでした。
しかし、日本は、TPAなしでも、圧力を強める米国の前に、重要5項目の一部品目を明け渡す譲歩案を検討しているのです。
(つづく)(3回連載の予定です)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2014年2月27日付掲載
国会決議の「農林水産分野の重要5品目などの聖域の確保を最優先し、それが確保できないと判断した場合は、脱退も辞さない」を踏みにじって、財界や米国の要求を呑むことは許されませんね。