日本良い国の時代 愛国者たちの暗黒郷⑥ 不逞思想の持ち主は南島へ「流刑」
早川タダノリ
日本最大の旅行代理店JTBは、もともと外国人観光客誘客促進を目的として発足し、戦時下では「東亜旅行社」「東亜交通公社」と名を変えながら「観光報国」に通進した準国策会社だった。戦後はGHQによって解体されて日本交通公社として再発足するのだが、その初代会長となったのが大蔵公望(きんもち)(元男爵)だった。この大蔵が『外交評論』(日本外政協会)1942年4月号に掲載された論文「大東亜共栄圏の政治建設」にこんなことを書いていた。
東条内閣が戦時中、「思想犯」を島流しにしていた事実を報じた本紙1985年5月14日付の1面と15面
不逞(ふてい)思想の撃滅 抗日思想は素(もと)より共産思想亦(また)絶対的に此(こ)れを弾圧す可(べ)きで、其(そ)の取扱に温情を示すことは不可である。不逞思想の所有者は悉(ことごと)く之(こ)れを死刑又は流刑に処し、一般の善良なる人民と隔離せねばならない。
この反共の悪魔としか言いようがないトンデモ構想が、実は現実のものとなっていた。旧陸軍省軍務課の文書「思想犯経歴者南方に収容する件」(1942年8月14日付)には、
非転向者中再犯ノ虞(おそれ)顕著ナラザルモノ又ハ準転向者中其ノ儘(まま)国内二居住セシムルヲ不適当ト認ムルモノニ付キテハ南方諸島中適当ノ島嶼(とうしょ)ニシテ他ノ日本人ノ居住セズ又駐兵ノ必要ナキ島嶼ヲ選ビ此処(ここ)二於(おい)テ必要ナル監督ノ下二夫々(それぞれ)適当ナル業務二当ラシムルコト(『資料日本現代史』第13巻、大月書店、1985年より引用)
とある。善良な臣民の迷惑にならないようなどうでもいい島を探して、「アカ」どもを放りこんでおけ、というわけだ。戦後、これはさすがに計画だけだったのだろうと思われていたが、治安維持法犠牲者国家賠償要求同盟の調査によって、「司法省派遣図南奉公義勇隊」という名目でボルネオ島北部に「島流し」された30人の名前が明らかにされた。日本人はもちろん朝鮮人・台湾人をも含む流刑者のうち、6人の方が戦闘に巻き込まれ戦病死したという。(本紙1984年5月14日付記事を参照)
戦争をやりたい支配階級が、最も目の敵にするのは思想堅固な共産主義者だ。先達の凄まじい苦境を思うとき、こんな歴史を二度と繰り返させてはならないと思う。(おわり)
(はやかわ・ただのり編集者)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2014年7月16日付掲載
思想犯を監獄にぶち込んでおくだけでなく、隔離しておこうってことだから、この上ないひどい扱いだ。監獄ならまだ、政府に受刑者の健康管理の義務があるが、南国の島なら「勝手に生きておけ」ということで責任放棄にもあたる。
許されることではない。
早川タダノリ
日本最大の旅行代理店JTBは、もともと外国人観光客誘客促進を目的として発足し、戦時下では「東亜旅行社」「東亜交通公社」と名を変えながら「観光報国」に通進した準国策会社だった。戦後はGHQによって解体されて日本交通公社として再発足するのだが、その初代会長となったのが大蔵公望(きんもち)(元男爵)だった。この大蔵が『外交評論』(日本外政協会)1942年4月号に掲載された論文「大東亜共栄圏の政治建設」にこんなことを書いていた。
東条内閣が戦時中、「思想犯」を島流しにしていた事実を報じた本紙1985年5月14日付の1面と15面
不逞(ふてい)思想の撃滅 抗日思想は素(もと)より共産思想亦(また)絶対的に此(こ)れを弾圧す可(べ)きで、其(そ)の取扱に温情を示すことは不可である。不逞思想の所有者は悉(ことごと)く之(こ)れを死刑又は流刑に処し、一般の善良なる人民と隔離せねばならない。
この反共の悪魔としか言いようがないトンデモ構想が、実は現実のものとなっていた。旧陸軍省軍務課の文書「思想犯経歴者南方に収容する件」(1942年8月14日付)には、
非転向者中再犯ノ虞(おそれ)顕著ナラザルモノ又ハ準転向者中其ノ儘(まま)国内二居住セシムルヲ不適当ト認ムルモノニ付キテハ南方諸島中適当ノ島嶼(とうしょ)ニシテ他ノ日本人ノ居住セズ又駐兵ノ必要ナキ島嶼ヲ選ビ此処(ここ)二於(おい)テ必要ナル監督ノ下二夫々(それぞれ)適当ナル業務二当ラシムルコト(『資料日本現代史』第13巻、大月書店、1985年より引用)
とある。善良な臣民の迷惑にならないようなどうでもいい島を探して、「アカ」どもを放りこんでおけ、というわけだ。戦後、これはさすがに計画だけだったのだろうと思われていたが、治安維持法犠牲者国家賠償要求同盟の調査によって、「司法省派遣図南奉公義勇隊」という名目でボルネオ島北部に「島流し」された30人の名前が明らかにされた。日本人はもちろん朝鮮人・台湾人をも含む流刑者のうち、6人の方が戦闘に巻き込まれ戦病死したという。(本紙1984年5月14日付記事を参照)
戦争をやりたい支配階級が、最も目の敵にするのは思想堅固な共産主義者だ。先達の凄まじい苦境を思うとき、こんな歴史を二度と繰り返させてはならないと思う。(おわり)
(はやかわ・ただのり編集者)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2014年7月16日付掲載
思想犯を監獄にぶち込んでおくだけでなく、隔離しておこうってことだから、この上ないひどい扱いだ。監獄ならまだ、政府に受刑者の健康管理の義務があるが、南国の島なら「勝手に生きておけ」ということで責任放棄にもあたる。
許されることではない。