日本良い国の時代 愛国者たちの暗黒郷④ アマチュア写真も防諜報国
早川タダノリ
昨年12月に「秘密保護法」が成立した。何が秘密なのかもわからないすさまじい悪法で、しかも首相権限による恣意的な運用が目指されていることから、一刻も早い廃止が必要だ。
「カメラ犯罪」
戦時中は軍機保護法、要塞地帯法、軍用資源秘密保護法などによって軍事機密が「保護」され、さらに最高刑は死刑であった国防保安法とともに、「レーン・宮沢事件」をはじめとする数多くの悲劇が生みだされた。この防諜関係法令の圧力は一般庶民にとっても身近なものだった。当時の新聞は「カメラ犯罪」と名づけていたようだが―
ある男が花嫁を連れて里帰りの際、郷里の公園で自分のカメラで花嫁の記念撮影をした。ところがその背景が禁止区域になっていた場所だったために罪に問われた
―といった日常生活の中での写真をめぐる摘発は、昭和15(1940)年夏から40余件にものぼったという記事が「東京朝日新聞」昭和16年4月1日付夕刊にある。また雑誌『カメラ』昭和15年10月号(アルス刊)掲載の啓蒙記事「当局に訊く防諜座談会」によれば、要塞地帯法の違反件数として「昭和十一年が九十一件、十二年が百十四件、十三年が百五十三件、十四年が八十五件」(内務省・緒方事務官の発言)に上ったとあり、「カメラ犯罪」はアマチュア写真家諸氏にとっては深刻な問題であった。

『国防と写真の撮影』から
生活監視され
そうした中で、軍機三法にひっかからない風景写真の撮り方指南書さえもが出版されていた。その一つが『国防と写真の撮影』(憲兵司令部検閲班嘱託・田玉栄吉編、博文館、昭和16年5月)だ。「序言」によれば、「どんな所が写真に撮影して宜いのか、悪いのか」を一般人にもわかるように編纂したとある。本文中に「よくない例」として挙げられているのがこの写真だが、どこが問題かおわかりだろうか。
ズバリ、「遠景に要塞地帯が見える時は悪い」。ピントは手前の幼児にあるが、バックにぼんやりとでも要塞地帯が写っていたらアウトなのであった。
こういう個人的スナップを当局はどうやって摘発していたのか。本書にはまったく書かれていないが、写真現像の段階で通報されていたのかもしれない。現在と同じく、生活のあらゆる場面で監視されていた社会だったのだ。
(はやかわ・ただのり編集者)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2014年7月2日付掲載
写真を趣味としている僕としては、「写真撮影」が犯罪にされるなんて…。堅苦しい、せせこましい世の中になるなんて許せない。
早川タダノリ
昨年12月に「秘密保護法」が成立した。何が秘密なのかもわからないすさまじい悪法で、しかも首相権限による恣意的な運用が目指されていることから、一刻も早い廃止が必要だ。
「カメラ犯罪」
戦時中は軍機保護法、要塞地帯法、軍用資源秘密保護法などによって軍事機密が「保護」され、さらに最高刑は死刑であった国防保安法とともに、「レーン・宮沢事件」をはじめとする数多くの悲劇が生みだされた。この防諜関係法令の圧力は一般庶民にとっても身近なものだった。当時の新聞は「カメラ犯罪」と名づけていたようだが―
ある男が花嫁を連れて里帰りの際、郷里の公園で自分のカメラで花嫁の記念撮影をした。ところがその背景が禁止区域になっていた場所だったために罪に問われた
―といった日常生活の中での写真をめぐる摘発は、昭和15(1940)年夏から40余件にものぼったという記事が「東京朝日新聞」昭和16年4月1日付夕刊にある。また雑誌『カメラ』昭和15年10月号(アルス刊)掲載の啓蒙記事「当局に訊く防諜座談会」によれば、要塞地帯法の違反件数として「昭和十一年が九十一件、十二年が百十四件、十三年が百五十三件、十四年が八十五件」(内務省・緒方事務官の発言)に上ったとあり、「カメラ犯罪」はアマチュア写真家諸氏にとっては深刻な問題であった。

『国防と写真の撮影』から
生活監視され
そうした中で、軍機三法にひっかからない風景写真の撮り方指南書さえもが出版されていた。その一つが『国防と写真の撮影』(憲兵司令部検閲班嘱託・田玉栄吉編、博文館、昭和16年5月)だ。「序言」によれば、「どんな所が写真に撮影して宜いのか、悪いのか」を一般人にもわかるように編纂したとある。本文中に「よくない例」として挙げられているのがこの写真だが、どこが問題かおわかりだろうか。
ズバリ、「遠景に要塞地帯が見える時は悪い」。ピントは手前の幼児にあるが、バックにぼんやりとでも要塞地帯が写っていたらアウトなのであった。
こういう個人的スナップを当局はどうやって摘発していたのか。本書にはまったく書かれていないが、写真現像の段階で通報されていたのかもしれない。現在と同じく、生活のあらゆる場面で監視されていた社会だったのだ。
(はやかわ・ただのり編集者)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2014年7月2日付掲載
写真を趣味としている僕としては、「写真撮影」が犯罪にされるなんて…。堅苦しい、せせこましい世の中になるなんて許せない。