変貌する経済 自動車③ 「減収増益」のカラクリは
2007年度に3・5兆円を超えたスズキの連結売上高は、世界的不況で落ち込み、13年度も3兆円に届きませんでした。ところが、経常利益はこの間26%も増えています。
業界一の低賃金
減収増益のカラクリはなにか。自動車業界に詳しいジャーナリストは「これまでの薄利多売から付加価値をつけた車へと戦略を変更したのも一因だが、業界一低い賃金と徹底した合理化、下請けたたきの影響が大きい」と解説します。
今年の春闘でスズキは、トヨタやホンダが2千円超のべースアップをするなか、「大手並みにはできない」(鈴木修会長)として800円の回答。しかも、全労働者一律の賃上げではありません。
労働者は成果主義賃金で競わされ、役職につかなければ何年働いても賃金が全く上がらず、家族手当もありません。
「かつて、事務所のトイレが少なく我慢して腹痛になったとの訴えがあり、調べると便器の数が労働安全衛生規則の基準の半分しかなかった。会社に言って是正させたが、こういう話はいくらでもある」
スズキの元労働者の太田泰久さんは苦笑します。残業代が払われないことを労働基準監督署に訴え、改めさせたこともあります。
長時間労働はいまも深刻です。日本共産党スズキ支部が1980年代から発行している職場新聞「わっぱ」の編集委員会は5月、本社の退社時間を調べました。夜8時から12時に1855人が退社し、そのうち10時から12時の退社が590人に上りました。
太田さんは、インドのマネサール工場では、資本の論理がさらに凶暴に労働者に加えられていたと指摘します。
マネサール工場で起きた暴力事件を現地調査し、記者会見する「労働者の権利をめざす国際委員会」の国際調査団。右から3人目が太田さん=2013年5月
【スズキの労働者の声(職場しんぶん「わっぱ」から)】
磐田工場
子どもの学費に一番お金がかかるときなのに、私の賃上げは100円だけ。鈴木修会長は400万円アップの1億5500万円。社員のことを考えてほしい
本社技術
午後11時半ごろ退社した社員が本社を出たところで恐喝に遭った。会社は「夜遅くは複数で退社を」というが、そんなに遅くまで仕事をしなければいけないことを改めるべきだ
大須賀工場
去年は会長の工場監査が3回ドタキャン。来るというたびに掃除とペンキ塗りに明け暮れた。今年も9月に来るというが、去年の繰り返しは勘弁してほしい
日本では1分に1台の割合で生産ラインに自動車が流れてくるのに対し、マネサールでは45秒に1台の割合で流れてくる。15秒も短い過密労働。
勤務途中の休憩時間は、日本が10分程度なのに対し、マネサールは7分間しかない。
1日の生産台数の目標が決められ、目標に到達するまで時間外労働を強いられる。平均2時間のただ働き残業になっている。
理由にかかわらず1カ月に1日休むと「生産性」連動部分の賃金(賃金全体の50%)の25%が削られ、3日休むとすべて無くなる。
工場労働者のうち約75%が不安定雇用で、賃金は正規労働者の4分の1程度しかない。
労組結成の直後
マネサール工場で12年7月に起きた暴力事件について、スズキは一貫して労働問題が背景にあると認めません。しかし事件は、工場の労働者がさまざまな妨害をはねのけ、自主的な労働組合を結成した直後に起きました。
自主的な労働組合がハリヤナ州労働部に登録されたのが12年3月。組合は翌月、すべての契約労働者を正規化することなどを求めた「要求憲章」を発表します。その後十数回に及ぶ交渉をへて、経営側は7月中旬にこれ以上の交渉拒否を表明。これに対抗し、組合は不払い残業拒否を表明しました。
そして7月18日に事件が起き、多くの労働組合幹部が逮捕され、2300人余の労働者が解雇されたのです。背景に労働組合をつぶす意図がなかったのか。太田さんは、日本共産党員を30年以上差別し続けた、スズキの労務政策を思い起こしました。(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2014年7月26日付掲載
トヨタの看板方式、ジャストインタイム。また下請単価たたきはよく問題にされますが、スズキでも同じようなことが行われているのですね。それも正規労働者の賃金まで低く抑えて。
2007年度に3・5兆円を超えたスズキの連結売上高は、世界的不況で落ち込み、13年度も3兆円に届きませんでした。ところが、経常利益はこの間26%も増えています。
業界一の低賃金
減収増益のカラクリはなにか。自動車業界に詳しいジャーナリストは「これまでの薄利多売から付加価値をつけた車へと戦略を変更したのも一因だが、業界一低い賃金と徹底した合理化、下請けたたきの影響が大きい」と解説します。
今年の春闘でスズキは、トヨタやホンダが2千円超のべースアップをするなか、「大手並みにはできない」(鈴木修会長)として800円の回答。しかも、全労働者一律の賃上げではありません。
労働者は成果主義賃金で競わされ、役職につかなければ何年働いても賃金が全く上がらず、家族手当もありません。
「かつて、事務所のトイレが少なく我慢して腹痛になったとの訴えがあり、調べると便器の数が労働安全衛生規則の基準の半分しかなかった。会社に言って是正させたが、こういう話はいくらでもある」
スズキの元労働者の太田泰久さんは苦笑します。残業代が払われないことを労働基準監督署に訴え、改めさせたこともあります。
長時間労働はいまも深刻です。日本共産党スズキ支部が1980年代から発行している職場新聞「わっぱ」の編集委員会は5月、本社の退社時間を調べました。夜8時から12時に1855人が退社し、そのうち10時から12時の退社が590人に上りました。
太田さんは、インドのマネサール工場では、資本の論理がさらに凶暴に労働者に加えられていたと指摘します。
マネサール工場で起きた暴力事件を現地調査し、記者会見する「労働者の権利をめざす国際委員会」の国際調査団。右から3人目が太田さん=2013年5月
【スズキの労働者の声(職場しんぶん「わっぱ」から)】
磐田工場
子どもの学費に一番お金がかかるときなのに、私の賃上げは100円だけ。鈴木修会長は400万円アップの1億5500万円。社員のことを考えてほしい
本社技術
午後11時半ごろ退社した社員が本社を出たところで恐喝に遭った。会社は「夜遅くは複数で退社を」というが、そんなに遅くまで仕事をしなければいけないことを改めるべきだ
大須賀工場
去年は会長の工場監査が3回ドタキャン。来るというたびに掃除とペンキ塗りに明け暮れた。今年も9月に来るというが、去年の繰り返しは勘弁してほしい
日本では1分に1台の割合で生産ラインに自動車が流れてくるのに対し、マネサールでは45秒に1台の割合で流れてくる。15秒も短い過密労働。
勤務途中の休憩時間は、日本が10分程度なのに対し、マネサールは7分間しかない。
1日の生産台数の目標が決められ、目標に到達するまで時間外労働を強いられる。平均2時間のただ働き残業になっている。
理由にかかわらず1カ月に1日休むと「生産性」連動部分の賃金(賃金全体の50%)の25%が削られ、3日休むとすべて無くなる。
工場労働者のうち約75%が不安定雇用で、賃金は正規労働者の4分の1程度しかない。
労組結成の直後
マネサール工場で12年7月に起きた暴力事件について、スズキは一貫して労働問題が背景にあると認めません。しかし事件は、工場の労働者がさまざまな妨害をはねのけ、自主的な労働組合を結成した直後に起きました。
自主的な労働組合がハリヤナ州労働部に登録されたのが12年3月。組合は翌月、すべての契約労働者を正規化することなどを求めた「要求憲章」を発表します。その後十数回に及ぶ交渉をへて、経営側は7月中旬にこれ以上の交渉拒否を表明。これに対抗し、組合は不払い残業拒否を表明しました。
そして7月18日に事件が起き、多くの労働組合幹部が逮捕され、2300人余の労働者が解雇されたのです。背景に労働組合をつぶす意図がなかったのか。太田さんは、日本共産党員を30年以上差別し続けた、スズキの労務政策を思い起こしました。(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2014年7月26日付掲載
トヨタの看板方式、ジャストインタイム。また下請単価たたきはよく問題にされますが、スズキでも同じようなことが行われているのですね。それも正規労働者の賃金まで低く抑えて。