「経済の好循環」に背く財界の主張 政労委報告を読む①
回り始めない「歯車」
労働総研事務局次長 藤田宏さん
経団連「経営労働政策委員会報告」(以下、経労委報告、報告)が1月20日に発表されました。財界の春闘方針です。タイトルは、「生産性を高め、経済の好循環を目指す」です。安倍晋三首相は、「経済の好循環」のために、「労働生産性の向上を図り、企業収益を拡大させ、それを賃金上昇や雇用拡大につなげる」と強調しています。経労委報告は、安倍発言に対応したものです。
そのキーワードは、「経済の好循環」(以下、「好循環」論)です。100ページ足らずの報告の中で、「好循環」という言葉が十数カ所もでてきます。報告は、財界が安倍政権と一体で、アベノミクスによる「好循環」の道を突き進む決意を示しています。
2順目に望み薄
報告は、昨年の春闘について、「デフレからの脱却と経済の好循環実現」のために「近年にない賃金の引き上げ」がおこなわれ、「経済の好循環の歯車を回し始めた」と評価しています。
その“証拠”として、昨春闘は「16年ぶり」の大幅賃上げとなり、賞与・一時金も「24年ぶりの高い伸び率」となったことをあげています。
「企業収益の増大」が賃金引き上げにつながった、アベノミクスの成果だというのです。そして、15春闘でも、「収益の拡大という成果を賃金の引き上げにつなげていく」といい、15春闘を「好循環の2順目」にする重要性を説いています。
しかし、14春闘によって、労働者の家計は楽になったのでしょうか。厚生労働省「毎月勤労統計調査月報」によると、14年の年収は379万7000円です。前年は376万6000円でしたから、わずか3万1000円しか増えていません。消費税増税や円安・物価上昇で賃金は目減りし、実質賃金は、18カ月連続マイナスです。
「経済の好循環」は、内需の6割近くを占める家計の「好循環」(賃金増→家計消費支出増→内需拡大→企業収益拡大→景気回復→賃金増)があって、初めて実現するはずです。労働者家計の現状からは「好循環」論など望むべくもありません。
財界のために
にもかかわらず、報告が、「好循環の歯車を回し始めた」と評価するのにはわけがあります。アベノミクスによって、大企業の収益拡大の「好循環」が始まっているからです。大企業の内部留保は、安倍内閣発足直後の13年1~3月期265兆4000億円から14春闘後の14年7~9月期には286兆4000億円へと21兆円も増えています。(グラフ)
アベノミクスの恩恵を受けた結果です。トヨタの14年3月期決算をみると、連結営業利益だけでも2兆2900億円もの巨額に上ります。そのうち9000億円が、アベノミクスによる円安効果です。そして、14春闘をわずかな賃上げで抑えたことが、大企業の収益拡大の「好循環の歯車」を回したのです。
「好循環」論を唱えて、実質賃金の上昇にも満たないほんのわずかな賃上げをおこなえば、アベノミクスの「好循環」論の目くらましになり、アベノミクスが続けば、賃上げ原資の何十倍もの見返りがあり、財界・大企業の収益拡大の「好循環」につながるーここに、14春闘結果に味を占めた財界が、報告でことさら「好循環」論を強調する狙いがあります。
(つづく4回連載)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2015年2月25日付掲載
大企業の内部留保が増える「好循環」は確かに回っていますが、労働者の賃金の上昇はとても「好循環」と言えるものではありません。昨年4月の消費税増税で吹っ飛んで行ってしまっています。
回り始めない「歯車」
労働総研事務局次長 藤田宏さん
経団連「経営労働政策委員会報告」(以下、経労委報告、報告)が1月20日に発表されました。財界の春闘方針です。タイトルは、「生産性を高め、経済の好循環を目指す」です。安倍晋三首相は、「経済の好循環」のために、「労働生産性の向上を図り、企業収益を拡大させ、それを賃金上昇や雇用拡大につなげる」と強調しています。経労委報告は、安倍発言に対応したものです。
そのキーワードは、「経済の好循環」(以下、「好循環」論)です。100ページ足らずの報告の中で、「好循環」という言葉が十数カ所もでてきます。報告は、財界が安倍政権と一体で、アベノミクスによる「好循環」の道を突き進む決意を示しています。
2順目に望み薄
報告は、昨年の春闘について、「デフレからの脱却と経済の好循環実現」のために「近年にない賃金の引き上げ」がおこなわれ、「経済の好循環の歯車を回し始めた」と評価しています。
その“証拠”として、昨春闘は「16年ぶり」の大幅賃上げとなり、賞与・一時金も「24年ぶりの高い伸び率」となったことをあげています。
「企業収益の増大」が賃金引き上げにつながった、アベノミクスの成果だというのです。そして、15春闘でも、「収益の拡大という成果を賃金の引き上げにつなげていく」といい、15春闘を「好循環の2順目」にする重要性を説いています。
しかし、14春闘によって、労働者の家計は楽になったのでしょうか。厚生労働省「毎月勤労統計調査月報」によると、14年の年収は379万7000円です。前年は376万6000円でしたから、わずか3万1000円しか増えていません。消費税増税や円安・物価上昇で賃金は目減りし、実質賃金は、18カ月連続マイナスです。
「経済の好循環」は、内需の6割近くを占める家計の「好循環」(賃金増→家計消費支出増→内需拡大→企業収益拡大→景気回復→賃金増)があって、初めて実現するはずです。労働者家計の現状からは「好循環」論など望むべくもありません。
財界のために
にもかかわらず、報告が、「好循環の歯車を回し始めた」と評価するのにはわけがあります。アベノミクスによって、大企業の収益拡大の「好循環」が始まっているからです。大企業の内部留保は、安倍内閣発足直後の13年1~3月期265兆4000億円から14春闘後の14年7~9月期には286兆4000億円へと21兆円も増えています。(グラフ)
アベノミクスの恩恵を受けた結果です。トヨタの14年3月期決算をみると、連結営業利益だけでも2兆2900億円もの巨額に上ります。そのうち9000億円が、アベノミクスによる円安効果です。そして、14春闘をわずかな賃上げで抑えたことが、大企業の収益拡大の「好循環の歯車」を回したのです。
「好循環」論を唱えて、実質賃金の上昇にも満たないほんのわずかな賃上げをおこなえば、アベノミクスの「好循環」論の目くらましになり、アベノミクスが続けば、賃上げ原資の何十倍もの見返りがあり、財界・大企業の収益拡大の「好循環」につながるーここに、14春闘結果に味を占めた財界が、報告でことさら「好循環」論を強調する狙いがあります。
(つづく4回連載)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2015年2月25日付掲載
大企業の内部留保が増える「好循環」は確かに回っていますが、労働者の賃金の上昇はとても「好循環」と言えるものではありません。昨年4月の消費税増税で吹っ飛んで行ってしまっています。