国境の島・沖縄与那国 自衛隊配備を問う① 迫る与那国住民投票(22日)
日本最西端の国境の島、沖縄県与那国町への自衛隊配備を問う町民投票が22日に実施されます。人ロ1500人の小さな町を自衛隊の支配する島にしたくないと、住民投票を求めて立ち上がった人たち。自衛隊配備がはらむ問題点を探ります。(岡素晴)

過疎化 経済効果期待できない
東京から南西に1900キロの与那国島は西110キロに台湾が近接しています。
サトウキビ、長命草の栽培やカジキ漁、ダイビングを柱とする観光など島の特性を生かした産業が町民の生活基盤です。
しかし、自民党政治がもたらした地方衰退の波で、より深刻な過疎化に直面し、沖縄の日本復帰時に約3000人だった人口は現在、半減しています。外間守吉町長をはじめ自衛隊配備推進派は、人口減少に歯止めをかけられると繰り返してきました。
2008年9月に自衛隊の親睦団体「与那国防衛協会」が集めた514人分の請求署名に基づき、町議会が自衛隊誘致を決議。昨年4月には防衛省が基地建設に着手しました。しかし、基地建設に反対する住民の粘り強いたたかいで昨年11月に住民投票条例が可決され、今年1月23日に投票が告示されました。
自衛隊配備反対の住民でつくる「イソバの会」共同代表で、自営業の山口京子さん(56)は、推進派の過疎対策論に懐疑的意見を投げかけます。「工事で一時的に潤うとしても、その後はどうするの。自衛隊が150人きたとしても一般の町民が減っていくままでは意味がない。自衛隊ありきで島をどうしていくのか、町長たちの考えが見えないんです」
実際はすでに自衛隊が駐屯する全国14の有人離島の大半が過疎に悩んでいます。対馬(長崎)や奄美(鹿児島)、礼文(北海道)など、いずれも人口は恒常的に右肩下がり。唯一、微増に転じているのは、世界自然遺産登録で活況を見せている父島(東京都小笠原村)だけです。
「これらの島も自衛隊がいなかったら、もっと衰退していたはず」。与那国防衛協会の金城信浩会長は、自衛隊基地の工事が始まってから「レンタカーや宿は予約で満杯だ」と強調しますが、町民の中には「工事や自衛隊の関係者が利用するのは誘致推進派の業者ばかり」という声も。「当初期待された飲食や宿泊面での経済効果は少なく、町内の商店、飲食業者からは『思ったよりも利用してもらえていない』『期待はずれでがっかり』と落胆の声が上がっている」(地元紙「八重山毎日」1月17日付)といいます。
推進派の大宜見浩利町議は「反対派はそうやって反論したいだけ。本当に(人口が)減るかどうか分からないじゃないか」とまともに答えませんでした。沖縄県が「平和産業の観光」による発展を柱に、基地依存型経済から脱却をめざす今、推進派は自立的な将来の展望を十分に語り得ていません。

防衛省の住民説明会で電磁波への不安を訴える町民=1月16日、沖縄県与那国町
電磁波 影響不安に応えず
与那国島への自衛隊配備計画は、監視レーダー設置と約100人の沿岸監視部隊を置くというもの。とりわけ、陸自の監視レーダー設置は町民の不安を増幅させています。久部良地域に予定されているレーダー建設地点は人家からわずか約180メートル。電磁波影響を直接受けてしまうとの懸念が広がっているのに、町や防衛省は真摯に応える姿勢を見せていません。
住民投票を前に不安の声を無視できなくなった町は1月16日、防衛省主催の住民説明会を久部良集落で開
きました。専門家として招かれた電磁界情報センターの大久保千代次所長は、世界保健機関(WHO)の知見をもとにレーダーの安全性を強調しました。
大久保氏は、厚生労働省の実施した電磁波の安全性に関する各種研究で主任研究者を歴任。同省から補助金2億円以上の拠出を受けていたことが、日本共産党の紙智子参院議員の提出した質問主意書(07年)への答弁で明らかになっています。
久部良集落でカフェを経営する猪股哲さん(39)は、税金で研究を続けてきた“御用学者”による“安全性ありき”の主張に、こぼしました。「本来なら、安全性だけでなく危険性を主張する研究者も呼び、双方の説明を公平に聞くことができる公開討論会のような場を設けるべきなのに。予想通り安全性一色の説明で残念です」

自衛隊配備問題への関心を高めようと町役場前に集まり、町民有志でアピール行動に取り組む人たち=1月14日、沖縄県与那国町
軍事的緊張 標的にされる
沖縄戦から70年、いまも語り継がれている教訓は、軍隊の駐留した場所が真っ先に敵の標的になったという事実です。
尖閣諸島をめぐる緊張とは一見、無縁とも思えるような穏やかな時の流れる島にもかつて戦禍に巻き込まれた記憶がありました。太平洋戦争末期、アメリカやイギリス両空軍の激しい爆撃が何度も襲い、島西端の久部良集落では民家百数戸やカツオ工場が焼失したとされています。
島に日本軍の部隊は配備されていなかったものの、同集落出身の元漁師、玉城正二さん(82)は「カツオ工場の煙突や山の上にあった監視施設が軍事施設と思われ、狙われたのだろう」と語ります。
玉城さんは、自衛隊配備による軍事的緊張の高まりを危惧しています。「66年間、尖閣の近海にも船を出して漁をしてきましたが、軍事的脅威を感じたことはありませんでした。台湾の漁船とも話し合ってやってきた。これ以上、緊張をあおって、またあの悲惨を繰り返すようなことはあってほしくない」(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2015年2月6日付掲載
危ないから軍事基地を設置する。そのことにより、さらに危険になり標的にされる。
それに対して、手づくりのプレートでアピール。住民の心を引き付けますね。
日本最西端の国境の島、沖縄県与那国町への自衛隊配備を問う町民投票が22日に実施されます。人ロ1500人の小さな町を自衛隊の支配する島にしたくないと、住民投票を求めて立ち上がった人たち。自衛隊配備がはらむ問題点を探ります。(岡素晴)

過疎化 経済効果期待できない
東京から南西に1900キロの与那国島は西110キロに台湾が近接しています。
サトウキビ、長命草の栽培やカジキ漁、ダイビングを柱とする観光など島の特性を生かした産業が町民の生活基盤です。
しかし、自民党政治がもたらした地方衰退の波で、より深刻な過疎化に直面し、沖縄の日本復帰時に約3000人だった人口は現在、半減しています。外間守吉町長をはじめ自衛隊配備推進派は、人口減少に歯止めをかけられると繰り返してきました。
2008年9月に自衛隊の親睦団体「与那国防衛協会」が集めた514人分の請求署名に基づき、町議会が自衛隊誘致を決議。昨年4月には防衛省が基地建設に着手しました。しかし、基地建設に反対する住民の粘り強いたたかいで昨年11月に住民投票条例が可決され、今年1月23日に投票が告示されました。
自衛隊配備反対の住民でつくる「イソバの会」共同代表で、自営業の山口京子さん(56)は、推進派の過疎対策論に懐疑的意見を投げかけます。「工事で一時的に潤うとしても、その後はどうするの。自衛隊が150人きたとしても一般の町民が減っていくままでは意味がない。自衛隊ありきで島をどうしていくのか、町長たちの考えが見えないんです」
実際はすでに自衛隊が駐屯する全国14の有人離島の大半が過疎に悩んでいます。対馬(長崎)や奄美(鹿児島)、礼文(北海道)など、いずれも人口は恒常的に右肩下がり。唯一、微増に転じているのは、世界自然遺産登録で活況を見せている父島(東京都小笠原村)だけです。
「これらの島も自衛隊がいなかったら、もっと衰退していたはず」。与那国防衛協会の金城信浩会長は、自衛隊基地の工事が始まってから「レンタカーや宿は予約で満杯だ」と強調しますが、町民の中には「工事や自衛隊の関係者が利用するのは誘致推進派の業者ばかり」という声も。「当初期待された飲食や宿泊面での経済効果は少なく、町内の商店、飲食業者からは『思ったよりも利用してもらえていない』『期待はずれでがっかり』と落胆の声が上がっている」(地元紙「八重山毎日」1月17日付)といいます。
推進派の大宜見浩利町議は「反対派はそうやって反論したいだけ。本当に(人口が)減るかどうか分からないじゃないか」とまともに答えませんでした。沖縄県が「平和産業の観光」による発展を柱に、基地依存型経済から脱却をめざす今、推進派は自立的な将来の展望を十分に語り得ていません。

防衛省の住民説明会で電磁波への不安を訴える町民=1月16日、沖縄県与那国町
電磁波 影響不安に応えず
与那国島への自衛隊配備計画は、監視レーダー設置と約100人の沿岸監視部隊を置くというもの。とりわけ、陸自の監視レーダー設置は町民の不安を増幅させています。久部良地域に予定されているレーダー建設地点は人家からわずか約180メートル。電磁波影響を直接受けてしまうとの懸念が広がっているのに、町や防衛省は真摯に応える姿勢を見せていません。
住民投票を前に不安の声を無視できなくなった町は1月16日、防衛省主催の住民説明会を久部良集落で開
きました。専門家として招かれた電磁界情報センターの大久保千代次所長は、世界保健機関(WHO)の知見をもとにレーダーの安全性を強調しました。
大久保氏は、厚生労働省の実施した電磁波の安全性に関する各種研究で主任研究者を歴任。同省から補助金2億円以上の拠出を受けていたことが、日本共産党の紙智子参院議員の提出した質問主意書(07年)への答弁で明らかになっています。
久部良集落でカフェを経営する猪股哲さん(39)は、税金で研究を続けてきた“御用学者”による“安全性ありき”の主張に、こぼしました。「本来なら、安全性だけでなく危険性を主張する研究者も呼び、双方の説明を公平に聞くことができる公開討論会のような場を設けるべきなのに。予想通り安全性一色の説明で残念です」

自衛隊配備問題への関心を高めようと町役場前に集まり、町民有志でアピール行動に取り組む人たち=1月14日、沖縄県与那国町
軍事的緊張 標的にされる
沖縄戦から70年、いまも語り継がれている教訓は、軍隊の駐留した場所が真っ先に敵の標的になったという事実です。
尖閣諸島をめぐる緊張とは一見、無縁とも思えるような穏やかな時の流れる島にもかつて戦禍に巻き込まれた記憶がありました。太平洋戦争末期、アメリカやイギリス両空軍の激しい爆撃が何度も襲い、島西端の久部良集落では民家百数戸やカツオ工場が焼失したとされています。
島に日本軍の部隊は配備されていなかったものの、同集落出身の元漁師、玉城正二さん(82)は「カツオ工場の煙突や山の上にあった監視施設が軍事施設と思われ、狙われたのだろう」と語ります。
玉城さんは、自衛隊配備による軍事的緊張の高まりを危惧しています。「66年間、尖閣の近海にも船を出して漁をしてきましたが、軍事的脅威を感じたことはありませんでした。台湾の漁船とも話し合ってやってきた。これ以上、緊張をあおって、またあの悲惨を繰り返すようなことはあってほしくない」(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2015年2月6日付掲載
危ないから軍事基地を設置する。そのことにより、さらに危険になり標的にされる。
それに対して、手づくりのプレートでアピール。住民の心を引き付けますね。