米国との国交正常化交渉 キューバ国民は③ 「社会も政治も変化」
ハバナ新市街から車で約5分の距離にある美容室「エル・イ・エジャ」(彼と彼女)。十数席がほぼ埋まる繁盛ぶりです。国営ですが、いま15人の労働者で協同組合を設立する手続きを進めており、もうすぐ経営を請け負います。
組合やる気満々
美容師のヤレニスさん(27)によれば、政府所有の機材や家具などはそのまま受け継ぎ、今後はすべて組合が責任を持ちます。政府への支払いは月約2300ペソ(約1万1000円)です。
ヤレニスさんたちの給与は技能によって差があるものの、300ペソほど。キューバの労働者の月平均給与は500ペソほど。4人家族で必要とされる2000から3000ペソとの差は、海外からの送金やアルバイト、職場での備品の「横流し」などで埋めているといわれます。
「いまのカット代は5ペソ(約25円)。安すぎる。これからは、料金も自分たちで決められるし、収入がふえれば給与も上げられる。いまの給与はすぐ倍ぐらいになると思う。みんなやる気満々です」
美容室でマッサージをしているラモンさんは、以前あった「シャンプーなどの横流しがなくなった」とつけ加えます。
キューバは2008年から経済の構造的変革に取り組み、11年のキューバ共産党第6回大会で党と革命の経済・社会政策路線」を採択。過剰な公務員の削減や自営業の拡大、遊休国有地の農地としての貸与などを進めてきました。
農業以外の分野での協同組合の設立、発展も重点課題の一つ。すでに500近い組合が認可されています。飲食業は基本的にすべて自営業か協同組合にする方針です。
経済学者・会計士全国連盟(ANEC)のホアキン・インファンテ副議長は「協同組合は広げるが、民間企業の設立は認めない。米国との関係正常化を生かして経済を発展させても、富を一部に集中させないためだ」といいます。

ハバナにある美容室「エル・イ・エジャ」の店内

季刊評論誌『テーマス』のエルナンデス編集長
民間企業は存在
一方、現代社会の諸問題を取り扱う政府公認の季刊評論誌『テーマス』(TEMAS)のラファエル・エルナンデス編集長は「事実上、すでに民闇企業は存在する。民間部門が社会主義の敵とも限らない」と指摘します。
「数十席あるレストランをいくつか所有し、大勢の人を雇用している自営業は、法的にはともかく、実態は民間企業と変わらない」
また、同氏は、ラウル・カストロ国家評議会議長が第6回党大会前、国民に「政策路線案」への意見を求めたことにふれ、「大きな政治的変化だ。異なる意見の存在は当然という、かつてなかった立場を示した」と評価します。
エルナンデス氏は政治に先行して社会はすでに変化しているといいます。
「キューバは別の社会主義をめざす移行期にある。なにもかもを政府が決めるのではなく、労働者の85%もが公務員でなく、異なる意見にも耳が傾けられる社会主義だ。国営ではなく公共の社会主義へ」
経済改革の中で論議されてきた社会主義や国のあり方。国交正常化交渉とその影響はそうした動きをさらに加速させるのか、その行方が注目されます。
(ハバナ=松島良尚 写真も)(おわり)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2015年2月17日付掲載
社会主義国といわれるキューバでもすべて国営で運営できないことは実感していることです。
アメリカとの国交正常化を機に、「国営でなく公共の社会主義」へ向かってほしいと思います。
ハバナ新市街から車で約5分の距離にある美容室「エル・イ・エジャ」(彼と彼女)。十数席がほぼ埋まる繁盛ぶりです。国営ですが、いま15人の労働者で協同組合を設立する手続きを進めており、もうすぐ経営を請け負います。
組合やる気満々
美容師のヤレニスさん(27)によれば、政府所有の機材や家具などはそのまま受け継ぎ、今後はすべて組合が責任を持ちます。政府への支払いは月約2300ペソ(約1万1000円)です。
ヤレニスさんたちの給与は技能によって差があるものの、300ペソほど。キューバの労働者の月平均給与は500ペソほど。4人家族で必要とされる2000から3000ペソとの差は、海外からの送金やアルバイト、職場での備品の「横流し」などで埋めているといわれます。
「いまのカット代は5ペソ(約25円)。安すぎる。これからは、料金も自分たちで決められるし、収入がふえれば給与も上げられる。いまの給与はすぐ倍ぐらいになると思う。みんなやる気満々です」
美容室でマッサージをしているラモンさんは、以前あった「シャンプーなどの横流しがなくなった」とつけ加えます。
キューバは2008年から経済の構造的変革に取り組み、11年のキューバ共産党第6回大会で党と革命の経済・社会政策路線」を採択。過剰な公務員の削減や自営業の拡大、遊休国有地の農地としての貸与などを進めてきました。
農業以外の分野での協同組合の設立、発展も重点課題の一つ。すでに500近い組合が認可されています。飲食業は基本的にすべて自営業か協同組合にする方針です。
経済学者・会計士全国連盟(ANEC)のホアキン・インファンテ副議長は「協同組合は広げるが、民間企業の設立は認めない。米国との関係正常化を生かして経済を発展させても、富を一部に集中させないためだ」といいます。

ハバナにある美容室「エル・イ・エジャ」の店内

季刊評論誌『テーマス』のエルナンデス編集長
民間企業は存在
一方、現代社会の諸問題を取り扱う政府公認の季刊評論誌『テーマス』(TEMAS)のラファエル・エルナンデス編集長は「事実上、すでに民闇企業は存在する。民間部門が社会主義の敵とも限らない」と指摘します。
「数十席あるレストランをいくつか所有し、大勢の人を雇用している自営業は、法的にはともかく、実態は民間企業と変わらない」
また、同氏は、ラウル・カストロ国家評議会議長が第6回党大会前、国民に「政策路線案」への意見を求めたことにふれ、「大きな政治的変化だ。異なる意見の存在は当然という、かつてなかった立場を示した」と評価します。
エルナンデス氏は政治に先行して社会はすでに変化しているといいます。
「キューバは別の社会主義をめざす移行期にある。なにもかもを政府が決めるのではなく、労働者の85%もが公務員でなく、異なる意見にも耳が傾けられる社会主義だ。国営ではなく公共の社会主義へ」
経済改革の中で論議されてきた社会主義や国のあり方。国交正常化交渉とその影響はそうした動きをさらに加速させるのか、その行方が注目されます。
(ハバナ=松島良尚 写真も)(おわり)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2015年2月17日付掲載
社会主義国といわれるキューバでもすべて国営で運営できないことは実感していることです。
アメリカとの国交正常化を機に、「国営でなく公共の社会主義」へ向かってほしいと思います。