デジタル化社会 光と影④ 「新自由主義」の罠に警戒
経済研究者 友寄英隆さん
新型コロナウイルス・ショックで破綻した「新自由主義」の唱道者たちは、「デジタル化社会」論を旗印にして復権をもくろんでいます。デジタル化が「新自由主義」路線のもとで推進されると、国民にとってはデジタル化の矛盾がいっそう拡大されます。
庁の設置提唱
かつて「新自由主義」路線の旗振り役だった竹中平蔵氏は、半年前からすでに、「世界はすさまじい勢いでデジタル資本主義の時代に入っていく」、「内閣府に『マイナンバー・デジタル庁ヒを新設して首相が直轄する」などと、デジタル庁の設置を提唱していました(「コロナ危機と日本の経済政策」〈日経新聞2020年7月24日付〉)。
菅義偉内閣が成立してからは、竹中氏の提言はさらにエスカレートしています。「このままだと日本はデジタル後進国になりかねません」、「規制を取っ払い、あらゆる分野でのデジタル化を進めていくべき」だとして、「コロナ・ショックを変化のチャンス」ととらえて、「ショックセラピー(ショック療法)」が必要だなどとまで主張しています(『文芸春秋』20年11月号)。
財界が20年11月に発表した「新成長戦略」でも、「デジタル庁を設置」して、「企業や個人による革新的な取り組みを阻害しないよう規制体系の抜本的な改革」が必要だ、などと要求しています。
「新自由主義」路線の復権を阻止するためには、デジタル化の技術的な特徴を利用した“「新自由主義」の罠”に警戒しておくことも必要です。
「新自由主義」イデオロギーは、単純な19世紀的な「個人主義」への回帰としてではなく、デジタル時代の労働者の「自己裁量権」の拡大、市民の「自己決定権」の尊重などを前面に掲げながら、あたかも資本主義の新たな発展段階に対応した「個人の自由の拡大」をめざす進歩的なイデオロギーであるかのような「幻想」を伴っています。
また、デジタル化のもとでの「個人の自由の拡大」という「幻想」は、「失業や貧困は自己責任だ」などというまったく誤った「自己責任論」を蔓延(まんえん)させる背景にもなっています。
例えば、若者が雇用関係の“束縛”を嫌い、“自由”に働けるフリーランサーを選ぶ背景にも、こうした“「新自由主義」の罠”が一定の影響を与えているといえるでしょう。
「新自由主義」イデオロギーの政治的な反動性や経済的な害悪を批判することにとどまらず、現代資本主義の技術的な変化、デジタル技術の浸透を背景にした「新自由主義」の仕掛ける“罠”にかからないようにする必要があります。
デジタル庁創設に向けたデジタル改革関連法案準備室の職員に訓示を行う菅義偉首相=2020年9月30日
連帯が不可欠
コロナ禍のもとで、ソーシャル・ディスタンス(社会的距離)を余儀なくされてきたために、私たちは、人間にとって人々の結びつきがいかに大事であるか、改めて気付かされました。世界保健機関(WHO)も、コロナ危機を克服するためには、「国際的な連帯と協力」が不可欠だと呼びかけています。
コロナ後の社会では、雇用や仕事、教育や文化をめぐる矛盾が増大して国民の苦しみ、悩みが深まることが予想されます。これまで「新自由主義」のもとで、「自己責任論」のイデオロギーに惑わされ、孤立を余儀なくされていた多くの青年・若者たちの中には、お互いに結びつき、連帯して、社会の不条理と立ち向かわねばならないと考える人たちも増えてくるでしょう。
コロナ禍は、人間こそ社会の主人公であることを、改めて教えています。
本連載の第2回で引用した国際労働機関(ILO)の報告書は、次のように述べています。
「われわれはまた、…仕事に影響する最終的な決断はアルゴリズム(コンピューター・プログラムによる問題解決の理論的手順)ではなく、人間自身が行う『人間主導』のアプローチを支持する。アルゴリズムに基づく労務管理、監視、統制は、労働者の尊厳を守るために規制しなければならない。労働者は商品ではない。またロボットでもない」(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2021年2月12日付掲載
デジタル化の推進によって、労働者や国民が行政サービスにより容易にアクセスできるようになるかの「幻想」。
一方で「失業や貧困は自己責任だ」の思想が押し付けられる。
あらかじめ決められたデジタル化のもとでの「アルゴリズム」の枠内ではなく、人間同士の連帯での行政サービスの充実を。
経済研究者 友寄英隆さん
新型コロナウイルス・ショックで破綻した「新自由主義」の唱道者たちは、「デジタル化社会」論を旗印にして復権をもくろんでいます。デジタル化が「新自由主義」路線のもとで推進されると、国民にとってはデジタル化の矛盾がいっそう拡大されます。
庁の設置提唱
かつて「新自由主義」路線の旗振り役だった竹中平蔵氏は、半年前からすでに、「世界はすさまじい勢いでデジタル資本主義の時代に入っていく」、「内閣府に『マイナンバー・デジタル庁ヒを新設して首相が直轄する」などと、デジタル庁の設置を提唱していました(「コロナ危機と日本の経済政策」〈日経新聞2020年7月24日付〉)。
菅義偉内閣が成立してからは、竹中氏の提言はさらにエスカレートしています。「このままだと日本はデジタル後進国になりかねません」、「規制を取っ払い、あらゆる分野でのデジタル化を進めていくべき」だとして、「コロナ・ショックを変化のチャンス」ととらえて、「ショックセラピー(ショック療法)」が必要だなどとまで主張しています(『文芸春秋』20年11月号)。
財界が20年11月に発表した「新成長戦略」でも、「デジタル庁を設置」して、「企業や個人による革新的な取り組みを阻害しないよう規制体系の抜本的な改革」が必要だ、などと要求しています。
「新自由主義」路線の復権を阻止するためには、デジタル化の技術的な特徴を利用した“「新自由主義」の罠”に警戒しておくことも必要です。
「新自由主義」イデオロギーは、単純な19世紀的な「個人主義」への回帰としてではなく、デジタル時代の労働者の「自己裁量権」の拡大、市民の「自己決定権」の尊重などを前面に掲げながら、あたかも資本主義の新たな発展段階に対応した「個人の自由の拡大」をめざす進歩的なイデオロギーであるかのような「幻想」を伴っています。
また、デジタル化のもとでの「個人の自由の拡大」という「幻想」は、「失業や貧困は自己責任だ」などというまったく誤った「自己責任論」を蔓延(まんえん)させる背景にもなっています。
例えば、若者が雇用関係の“束縛”を嫌い、“自由”に働けるフリーランサーを選ぶ背景にも、こうした“「新自由主義」の罠”が一定の影響を与えているといえるでしょう。
「新自由主義」イデオロギーの政治的な反動性や経済的な害悪を批判することにとどまらず、現代資本主義の技術的な変化、デジタル技術の浸透を背景にした「新自由主義」の仕掛ける“罠”にかからないようにする必要があります。
デジタル庁創設に向けたデジタル改革関連法案準備室の職員に訓示を行う菅義偉首相=2020年9月30日
連帯が不可欠
コロナ禍のもとで、ソーシャル・ディスタンス(社会的距離)を余儀なくされてきたために、私たちは、人間にとって人々の結びつきがいかに大事であるか、改めて気付かされました。世界保健機関(WHO)も、コロナ危機を克服するためには、「国際的な連帯と協力」が不可欠だと呼びかけています。
コロナ後の社会では、雇用や仕事、教育や文化をめぐる矛盾が増大して国民の苦しみ、悩みが深まることが予想されます。これまで「新自由主義」のもとで、「自己責任論」のイデオロギーに惑わされ、孤立を余儀なくされていた多くの青年・若者たちの中には、お互いに結びつき、連帯して、社会の不条理と立ち向かわねばならないと考える人たちも増えてくるでしょう。
コロナ禍は、人間こそ社会の主人公であることを、改めて教えています。
本連載の第2回で引用した国際労働機関(ILO)の報告書は、次のように述べています。
「われわれはまた、…仕事に影響する最終的な決断はアルゴリズム(コンピューター・プログラムによる問題解決の理論的手順)ではなく、人間自身が行う『人間主導』のアプローチを支持する。アルゴリズムに基づく労務管理、監視、統制は、労働者の尊厳を守るために規制しなければならない。労働者は商品ではない。またロボットでもない」(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2021年2月12日付掲載
デジタル化の推進によって、労働者や国民が行政サービスにより容易にアクセスできるようになるかの「幻想」。
一方で「失業や貧困は自己責任だ」の思想が押し付けられる。
あらかじめ決められたデジタル化のもとでの「アルゴリズム」の枠内ではなく、人間同士の連帯での行政サービスの充実を。