学術会議任命拒否政府文書 作成過程読み解く① 「結論ありき」で理由探し
菅義偉首相による日本学術会議の会員任命拒否に関して、内閣府と内閣法制局が協議を重ねて「首相が任命拒否できる」との法解釈を作り上げていました。日本共産党の田村智子参院議員が政府に開示させた、その協議経過を記した文書からは、政府が当初から「結論ありき」で理由付けを考えた過程がうかがえます。
日本学術会議=東京都港区
日本学術会議会員任命拒否問題と「2018年文書」
菅義偉首相は2020年9月28日、日本学術会議が推薦した105人の次期会員のうち6人の任命を拒否しました。過去に例がありません。6人は過去に、安保法制や共謀罪に反対を表明していました。発覚後、政府は「内閣府日本学術会議事務局」名義の2018年11月13日付文書を開示。首相に「推薦のとおりに任命すべき義務があるとまでは言えない」との法解釈を示す内容でした。
同議員が開示させたのは、内閣府の学術会議事務局が法制局に法解釈を相談した一連の文書。2018年9月5日付から同年11月13日付まで計19の文書があり、削除部分を線で消したり、加筆部分に下線を引いたりという「推敲(すいこう)」作業の経過が分かります。
狙い露骨な一文
最も古い日付(9月5日)の文書に、協議の狙いをストレートに表現する一文があります。
「推薦された候補者について、内閣総理大臣が会員に任命しないことが法的に許容されるかどうか」
日本学術会議法(日学法)は、同会議の推薦に基づいて首相が会員を任命すると定めています。実際、これまでは会議の推薦どおりの人数を首相が任命してきました。しかし9月5日付の文書の時点で、政府は任命拒否を明確に想定しているように読めます。
「任命拒否が許容されるか」という問いを立てた後、文書は任命拒否を正当化する「理由」をさまざまに検討していきます。
日本学術会議が推薦した候補者を首相が任命拒否することを想定したことがうかがえる記述(2018年9月5日付)
矛盾の文章併存
挙げた理由は―。
「『推薦』という語は…薦められた側を拘束することまで含意されるわけではない」
「内閣総理大臣は(会議を)所轄する立場からの責任を負っている…裁量の余地がないとまでは考えられない」
9月20日付や27日付の文書では、会員の選考が過去の選挙制から推薦・任命制に変わった(1983年)ことを念頭に「会員選考の要件が緩和され…会員選出を外部が確認する必要性はより高まっている」と書き込んでいました。
日学法が想定しているとは考えにくい「理由」を次々に挙げ、検討していたように見えます。
一つの文書の中に矛盾する文章が併存する「混乱」も見て取れます。「内閣総理大臣に拒否の権能はないものと解するのが椙当である」とした後に、「拒否の権能が全くないとまで解することはできない」と正反対の判断を示し、その後の結論部分が黒塗りになっています(日付なし)。
菅首相は国会答弁で、「首相が任命拒否できる」とする法解釈が任命制の導入以来、一貫していると説明しました。
しかしその説明とは裏腹に、18年の学術会議の補充人事がきっかけになってこの解釈検討が始まったことも、田村議員が開示させた資料から読み取ることができます。
(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2021年2月1日付掲載
日本学術会議の次期会員の任命に関して、首相に「推薦のとおりに任命すべき義務があるとまでは言えない」との法解釈の変更。
18年の学術会議の補充人事がきっかけになってこの解釈検討が始まった。
菅義偉首相による日本学術会議の会員任命拒否に関して、内閣府と内閣法制局が協議を重ねて「首相が任命拒否できる」との法解釈を作り上げていました。日本共産党の田村智子参院議員が政府に開示させた、その協議経過を記した文書からは、政府が当初から「結論ありき」で理由付けを考えた過程がうかがえます。
日本学術会議=東京都港区
日本学術会議会員任命拒否問題と「2018年文書」
菅義偉首相は2020年9月28日、日本学術会議が推薦した105人の次期会員のうち6人の任命を拒否しました。過去に例がありません。6人は過去に、安保法制や共謀罪に反対を表明していました。発覚後、政府は「内閣府日本学術会議事務局」名義の2018年11月13日付文書を開示。首相に「推薦のとおりに任命すべき義務があるとまでは言えない」との法解釈を示す内容でした。
同議員が開示させたのは、内閣府の学術会議事務局が法制局に法解釈を相談した一連の文書。2018年9月5日付から同年11月13日付まで計19の文書があり、削除部分を線で消したり、加筆部分に下線を引いたりという「推敲(すいこう)」作業の経過が分かります。
狙い露骨な一文
最も古い日付(9月5日)の文書に、協議の狙いをストレートに表現する一文があります。
「推薦された候補者について、内閣総理大臣が会員に任命しないことが法的に許容されるかどうか」
日本学術会議法(日学法)は、同会議の推薦に基づいて首相が会員を任命すると定めています。実際、これまでは会議の推薦どおりの人数を首相が任命してきました。しかし9月5日付の文書の時点で、政府は任命拒否を明確に想定しているように読めます。
「任命拒否が許容されるか」という問いを立てた後、文書は任命拒否を正当化する「理由」をさまざまに検討していきます。
日本学術会議が推薦した候補者を首相が任命拒否することを想定したことがうかがえる記述(2018年9月5日付)
矛盾の文章併存
挙げた理由は―。
「『推薦』という語は…薦められた側を拘束することまで含意されるわけではない」
「内閣総理大臣は(会議を)所轄する立場からの責任を負っている…裁量の余地がないとまでは考えられない」
9月20日付や27日付の文書では、会員の選考が過去の選挙制から推薦・任命制に変わった(1983年)ことを念頭に「会員選考の要件が緩和され…会員選出を外部が確認する必要性はより高まっている」と書き込んでいました。
日学法が想定しているとは考えにくい「理由」を次々に挙げ、検討していたように見えます。
一つの文書の中に矛盾する文章が併存する「混乱」も見て取れます。「内閣総理大臣に拒否の権能はないものと解するのが椙当である」とした後に、「拒否の権能が全くないとまで解することはできない」と正反対の判断を示し、その後の結論部分が黒塗りになっています(日付なし)。
菅首相は国会答弁で、「首相が任命拒否できる」とする法解釈が任命制の導入以来、一貫していると説明しました。
しかしその説明とは裏腹に、18年の学術会議の補充人事がきっかけになってこの解釈検討が始まったことも、田村議員が開示させた資料から読み取ることができます。
(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2021年2月1日付掲載
日本学術会議の次期会員の任命に関して、首相に「推薦のとおりに任命すべき義務があるとまでは言えない」との法解釈の変更。
18年の学術会議の補充人事がきっかけになってこの解釈検討が始まった。