デジタル化―菅「改革」の危険③ 政府が個人情報を握る
2020年12月25日、菅政権はマイナンバーカードの機能拡大などを盛り込んだ工程表を取りまとめました。(表)
現在のマイナンバー制度は、社会保障・税・災害対策にのみ使用を認められています。菅政権は今年3月から、健康保険証としてのマイナンバーカードの利用を開始し、運転免許証との一体化などの機能拡大を進める方針です。昨年、自民党は預金口座とのひもづけ義務化を画策しました。重要情報が集積されればされるほど、攻撃されやすくなり、情報漏えいのリスクが高まります。
国民にマイナンバーカードを押し付けるため、行政手続きのオンライン化や押印廃止など「行政の効率化」も行おうとしています。行政と住民をつなぐ窓口業務の削減と一体であり、適切な住民サービスを受けられなくなる危険性があります。
菅政権は、地方自治体の情報システムを集約して標準化する「自治体クラウド」の導入を進めています。そのためには、自治体ごとに異なる個人情報保護条例を標準化する必要があります。個人情報保護が弱い方向に統一されれば、先進的な自治体の努力が帳消しになってしまいます。
財界要求から
地方自治体が持つ個人情報と国の機関が持つ個人情報がマイナンバーで関連づけられ、強力な権限・業務を与えられたデジタル庁が設置されれば、国民の所得や資産、健康状況、教育・学習データ、資格などの個人データを丸ごと国家が管理することになります。日本では警察が本人の同意や令状なしに個人情報を入手できます。政府が国民のすべての個人情報を握って警察に無制限に流せば、国民が恐れる監視社会がつくられてしまいます。
今国会に提出された「デジタル改革関連法案」の準備は、民間企業も加わって進められました。デジタル庁の設置は、個人情報を自らのもうけのために自由勝手に使えるようにしたい財界の要求から出発しています。
平井卓也デジタル改革担当相は、デジタル庁の体制500人のうち100人強を民間企業から登用するとしています。これを許せば、民間企業の社員が「強力な司令塔機能を有する」デジタル庁の一員として、国のデジタル化と予算配分にまで関与するようになります。
政府が旗を振ってきたキヤッシュレス化では、セブン-イレブンやNTTドコモのシステムが不正アクセスや不正引き出しを招きました。もうけやシェア拡大のために安全性やプライバシー保護が軽視され、多くの国民に深刻な損害を与えています。東京商工リサーチの調査によると、個人情報の漏えい・紛失事故は12~19年の累計で372社、685件でした。漏えい・紛失した個人情報は累計8889万人分。日本の人口の約7割分が被害にあった計算です。
デジタル化を熱烈に推進している経団連の中核を担う通信・IT企業や、国民の大切な財産を預かる銀行でさえ、安心・安全なデジタル環境を提供・維持できていません。
暮らしを破壊
もともと国民の税・社会保障情報を一元的に管理する「共通番号」の導入を求めてきたのは財界でした。「負担に見あった給付」の名で社会保障を抑制し、国と大企業の負担を削減することが、政府・財界の最大のねらいです。菅首相の言う「自助」そのものです。
このように、菅政権の「デジタル改革」は、国民の個人情報を財界と特定企業のもうけのために活用してプライバシー保護をないがしろにし、国民にマイナンバーを押しつけて監視社会をつくるものです。国民の自治権とともに命と暮らしを破壊する亡国の道です。
プライバシーを守る権利は、憲法が保障する基本的人権です。今、必要なのは、個人情報を保護し、情報の自己決定権を保障する制度をしっかりと整備することです。それなくして、国民のくらしと命に貢献する真のデジタル化はできません。(おわり)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2021年2月20日付掲載
強力な権限・業務を与えられたデジタル庁が設置されれば、国民の所得や資産、健康状況、教育・学習データ、資格などの個人データを丸ごと国家が管理することに。
それは、国民にかゆいところに手が届くように社会保障を充実させるためではなく、逆に「負担に見あった給付」の名で社会保障を抑制し、国と大企業の負担を削減することが、政府・財界の最大のねらい。
2020年12月25日、菅政権はマイナンバーカードの機能拡大などを盛り込んだ工程表を取りまとめました。(表)
現在のマイナンバー制度は、社会保障・税・災害対策にのみ使用を認められています。菅政権は今年3月から、健康保険証としてのマイナンバーカードの利用を開始し、運転免許証との一体化などの機能拡大を進める方針です。昨年、自民党は預金口座とのひもづけ義務化を画策しました。重要情報が集積されればされるほど、攻撃されやすくなり、情報漏えいのリスクが高まります。
国民にマイナンバーカードを押し付けるため、行政手続きのオンライン化や押印廃止など「行政の効率化」も行おうとしています。行政と住民をつなぐ窓口業務の削減と一体であり、適切な住民サービスを受けられなくなる危険性があります。
菅政権は、地方自治体の情報システムを集約して標準化する「自治体クラウド」の導入を進めています。そのためには、自治体ごとに異なる個人情報保護条例を標準化する必要があります。個人情報保護が弱い方向に統一されれば、先進的な自治体の努力が帳消しになってしまいます。
財界要求から
地方自治体が持つ個人情報と国の機関が持つ個人情報がマイナンバーで関連づけられ、強力な権限・業務を与えられたデジタル庁が設置されれば、国民の所得や資産、健康状況、教育・学習データ、資格などの個人データを丸ごと国家が管理することになります。日本では警察が本人の同意や令状なしに個人情報を入手できます。政府が国民のすべての個人情報を握って警察に無制限に流せば、国民が恐れる監視社会がつくられてしまいます。
今国会に提出された「デジタル改革関連法案」の準備は、民間企業も加わって進められました。デジタル庁の設置は、個人情報を自らのもうけのために自由勝手に使えるようにしたい財界の要求から出発しています。
平井卓也デジタル改革担当相は、デジタル庁の体制500人のうち100人強を民間企業から登用するとしています。これを許せば、民間企業の社員が「強力な司令塔機能を有する」デジタル庁の一員として、国のデジタル化と予算配分にまで関与するようになります。
政府が旗を振ってきたキヤッシュレス化では、セブン-イレブンやNTTドコモのシステムが不正アクセスや不正引き出しを招きました。もうけやシェア拡大のために安全性やプライバシー保護が軽視され、多くの国民に深刻な損害を与えています。東京商工リサーチの調査によると、個人情報の漏えい・紛失事故は12~19年の累計で372社、685件でした。漏えい・紛失した個人情報は累計8889万人分。日本の人口の約7割分が被害にあった計算です。
デジタル化を熱烈に推進している経団連の中核を担う通信・IT企業や、国民の大切な財産を預かる銀行でさえ、安心・安全なデジタル環境を提供・維持できていません。
暮らしを破壊
もともと国民の税・社会保障情報を一元的に管理する「共通番号」の導入を求めてきたのは財界でした。「負担に見あった給付」の名で社会保障を抑制し、国と大企業の負担を削減することが、政府・財界の最大のねらいです。菅首相の言う「自助」そのものです。
このように、菅政権の「デジタル改革」は、国民の個人情報を財界と特定企業のもうけのために活用してプライバシー保護をないがしろにし、国民にマイナンバーを押しつけて監視社会をつくるものです。国民の自治権とともに命と暮らしを破壊する亡国の道です。
プライバシーを守る権利は、憲法が保障する基本的人権です。今、必要なのは、個人情報を保護し、情報の自己決定権を保障する制度をしっかりと整備することです。それなくして、国民のくらしと命に貢献する真のデジタル化はできません。(おわり)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2021年2月20日付掲載
強力な権限・業務を与えられたデジタル庁が設置されれば、国民の所得や資産、健康状況、教育・学習データ、資格などの個人データを丸ごと国家が管理することに。
それは、国民にかゆいところに手が届くように社会保障を充実させるためではなく、逆に「負担に見あった給付」の名で社会保障を抑制し、国と大企業の負担を削減することが、政府・財界の最大のねらい。