デジタル化社会 光と影⑤ 巨大ITの課税課題に
経済研究者 友寄英隆さん
デジタル化は、資本主義社会の経済法則や経済構造にも、大きな変化をもたらしつつあります。そこで、連載の最後に、マルクスが『資本論』で解明した経済理論をもとにしながら、デジタル化と資本主義経済の変化について、みておきましょう。
現代資本主義社会のもとで、新しいデジタル化技術を開発する企業(資本)は、技術革新によって巨額な特別剰余価値を得ることができます。とりわけ最新鋭のAI(人工知能)搭載ロポットなどは、マルクスの言う「人間の頭脳の対象化された知力」ともいえる技術的価値をもっているので、莫大(ばくだい)な特別剰余価値を獲得する手段となります。
デジタル技術を開発する企業は、新しい技術の特許を取得することによって、企業価値を高め、株式を上場すれば株価が急激に高騰します。株価の高騰は、その企業の創業.者たちに“ぬれ手で粟(あわ)”の巨額な創業者利得をもたらします。
【特別剰余価値と創業者利得】
特別剰余価値とは、ある企業(資本)が新しい生産技術の機械などを採用して平均水準以上の生産性をもつようになることで獲得する平均以上の剰余価値のこと。創業者利得とは、創業者が会社創立時に払い込んだ額面価格と、株式市場で株価高騰後に売却した時価との差額。
巨額超過利潤
現代資本主義のもとでは、デジタル技術をめぐる特別剰余価値の獲得(激烈な自由競争)と、その独占的な支配(独占利潤への転化)という、一見すると矛盾する原理が支配しています。
一方では、世界中の企業が情報関連の技術開発をめぐって熾烈(しれつ)な競争を展開しています。
他方では、米国のGAFA(ガーファ=グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)などの巨大企業は、デジタル技術やビッグデータの「囲い込み」を行い、独占的な情報支配を国際競争力の源泉として、世界市場を支配し、特別剰余価値を長期にわたって独占して、巨額の超過利潤を獲得しています。
デジタル技術が巨額の独占利潤の源泉になってきたことについては、このわずか四半世紀の期間に起業した米国のGAFAが瞬く間に巨大企業に急成長してきたことに象徴的に現れています。世界の株価の時価総額では、IT(情報技術)関連の巨大企業が上位をほぼ独占しています。
IT技術を支配して巨額な独占利潤を得ているGAFAなどに対して、法人課税のあり方が世界的な課題となっています。国際的な情報支配で稼ぐ利益に対して、従来の国家単位の法人税制では「合法的な脱税」が生まれているからです。
例えば、米アマゾンの2018年の税引き前利益は約113億ドルでしたが、証券取引委員会が公表した納税申告書によると、連邦所得税はゼロ、約1億3000万ドルの還付金さえ得ています。非IT企業との間で、企業間での「不公平税制」の問題が生まれているのです。
世界の株価の時価総額(100万ドル)
(資料)ANA:Financial Journal 2020年11月時点
情報吸い上げ
近年、米国のフェイスブックによる個人情報の大量流出など、日常的に企業の情報流出が報道されています。ビッグデータの管理と所有のあり方も焦眉の課題になっています。
GAFAが独占利潤の源泉にしているビッグデータは、単に集積された過去の情報(データ)という意味ではなくて、1秒ごとに膨張し続けていることです。地球上の膨大な数の企業の活動や、スマホからの個人情報を含むデータを吸い上げ、その規模は、日々刻々と膨張しています。
欧州連合(EU)では、すでに2018年5月に、IT巨大企業のデータ独占を厳しく規制して個人情報を保護するコ般データ保護規則(GDPR)」を施行しています。
デジタル技術は、資本主義社会の経済構造に大きな変化をもたらしつつあります。資本主義社会のデジタル化は、コロナ禍からの回復のために、いっそう進むことが予想されます。それは、「新自由主義」路線のもとでの行政のデジタル化によって、さらに拍車がかけられるでしょう。
「デジタル化社会の光と影」をめぐって、科学的な調査と研究、国民的な対話と討論が求められています。
(おわり)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2021年2月13日付掲載
世界の株価の時価総額の上位をIT企業が占めています。
特別剰余価値と創業者利得は、先行的に生産力をアップすることで以前の資本主義の社会でもありました。
米国のGAFAなどは、デジタル技術やビッグデータの「囲い込み」、いわゆるM&A・吸収合併や買収を繰り返して成長。
地道に積み上げてきたと言うより、風船のように膨張してきたのです。
経済研究者 友寄英隆さん
デジタル化は、資本主義社会の経済法則や経済構造にも、大きな変化をもたらしつつあります。そこで、連載の最後に、マルクスが『資本論』で解明した経済理論をもとにしながら、デジタル化と資本主義経済の変化について、みておきましょう。
現代資本主義社会のもとで、新しいデジタル化技術を開発する企業(資本)は、技術革新によって巨額な特別剰余価値を得ることができます。とりわけ最新鋭のAI(人工知能)搭載ロポットなどは、マルクスの言う「人間の頭脳の対象化された知力」ともいえる技術的価値をもっているので、莫大(ばくだい)な特別剰余価値を獲得する手段となります。
デジタル技術を開発する企業は、新しい技術の特許を取得することによって、企業価値を高め、株式を上場すれば株価が急激に高騰します。株価の高騰は、その企業の創業.者たちに“ぬれ手で粟(あわ)”の巨額な創業者利得をもたらします。
【特別剰余価値と創業者利得】
特別剰余価値とは、ある企業(資本)が新しい生産技術の機械などを採用して平均水準以上の生産性をもつようになることで獲得する平均以上の剰余価値のこと。創業者利得とは、創業者が会社創立時に払い込んだ額面価格と、株式市場で株価高騰後に売却した時価との差額。
巨額超過利潤
現代資本主義のもとでは、デジタル技術をめぐる特別剰余価値の獲得(激烈な自由競争)と、その独占的な支配(独占利潤への転化)という、一見すると矛盾する原理が支配しています。
一方では、世界中の企業が情報関連の技術開発をめぐって熾烈(しれつ)な競争を展開しています。
他方では、米国のGAFA(ガーファ=グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)などの巨大企業は、デジタル技術やビッグデータの「囲い込み」を行い、独占的な情報支配を国際競争力の源泉として、世界市場を支配し、特別剰余価値を長期にわたって独占して、巨額の超過利潤を獲得しています。
デジタル技術が巨額の独占利潤の源泉になってきたことについては、このわずか四半世紀の期間に起業した米国のGAFAが瞬く間に巨大企業に急成長してきたことに象徴的に現れています。世界の株価の時価総額では、IT(情報技術)関連の巨大企業が上位をほぼ独占しています。
IT技術を支配して巨額な独占利潤を得ているGAFAなどに対して、法人課税のあり方が世界的な課題となっています。国際的な情報支配で稼ぐ利益に対して、従来の国家単位の法人税制では「合法的な脱税」が生まれているからです。
例えば、米アマゾンの2018年の税引き前利益は約113億ドルでしたが、証券取引委員会が公表した納税申告書によると、連邦所得税はゼロ、約1億3000万ドルの還付金さえ得ています。非IT企業との間で、企業間での「不公平税制」の問題が生まれているのです。
世界の株価の時価総額(100万ドル)
企業 | 時価総額 | 業種 | |
1 | アップル | 2,014,972 | IT・通信 |
2 | サウジアラムコ | 1,843,791 | エネルギー |
3 | マイクロソフト | 1,692,218 | IT・通信 |
4 | アマゾン | 1,662,380 | IT・サービス |
5 | アルファベット | 1,192,611 | IT・通信 |
6 | フェイスブック | 836,219 | IT・サービス |
7 | アリババ | 781,654 | IT・通信 |
8 | テンセント | 757,218 | IT・通信 |
9 | P&G | 574,238 | 消費財 |
10 | バークシャー・ハサウェイ | 492,999 | 金融 |
情報吸い上げ
近年、米国のフェイスブックによる個人情報の大量流出など、日常的に企業の情報流出が報道されています。ビッグデータの管理と所有のあり方も焦眉の課題になっています。
GAFAが独占利潤の源泉にしているビッグデータは、単に集積された過去の情報(データ)という意味ではなくて、1秒ごとに膨張し続けていることです。地球上の膨大な数の企業の活動や、スマホからの個人情報を含むデータを吸い上げ、その規模は、日々刻々と膨張しています。
欧州連合(EU)では、すでに2018年5月に、IT巨大企業のデータ独占を厳しく規制して個人情報を保護するコ般データ保護規則(GDPR)」を施行しています。
デジタル技術は、資本主義社会の経済構造に大きな変化をもたらしつつあります。資本主義社会のデジタル化は、コロナ禍からの回復のために、いっそう進むことが予想されます。それは、「新自由主義」路線のもとでの行政のデジタル化によって、さらに拍車がかけられるでしょう。
「デジタル化社会の光と影」をめぐって、科学的な調査と研究、国民的な対話と討論が求められています。
(おわり)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2021年2月13日付掲載
世界の株価の時価総額の上位をIT企業が占めています。
特別剰余価値と創業者利得は、先行的に生産力をアップすることで以前の資本主義の社会でもありました。
米国のGAFAなどは、デジタル技術やビッグデータの「囲い込み」、いわゆるM&A・吸収合併や買収を繰り返して成長。
地道に積み上げてきたと言うより、風船のように膨張してきたのです。