飛騨地方の今日は高曇りで、乗鞍岳にも霞がかかっていた。
ひと頃、代掻きをするトラクターや田植え機のエンジン音が、あちこちから響いていたが、今は山里の田も静寂を取り戻している。
田植えが終わった山上の田は、水をたたえて静かな入り江のように見える。
ちょうど山フジの花が満開で、まわりを甘い香りで包んでいる。
今年はフジの花が例年に比べて多いし、石楠花や春先のこぶしの花もずいぶん目立った。
こぶしが多い年は豊作だといわれているので、秋の収穫が楽しみだ。
昔はフジのつるが小屋がけや吊り橋などの材料にされていたが、今は利用する人はいない。
むしろ木に絡んで枯らしてしまうし、山仕事の邪魔になるので、切り捨てられることが多かった。
今は山仕事をする人も少なくなったので、フジがあちこちで目立つようになって来た。
田んぼを見回っていたら、青大将が田の中へ入っていた。
水を張った田に蛙が棲みつき、それを狙って来るようで、泥の上には蛇の通った跡があちこちについている。
満腹で動きが鈍くなった蛇は、鷹やカラスの餌食になる。
田んぼには水生昆虫や毛虫、ミミズなどもたくさんいるので、それを餌に蛙はどんどん増えていく。
蛙の産卵期になると、今度は卵を狙ってイモリがやってくる。
捕食する姿は、養鰻場のうなぎが餌の塊を貪り食うようで凄まじい。
夏になればカマキリや蜘蛛も、昆虫を狙って参戦してくる。
静かな田んぼでは、収穫の秋まで、激しい命の営みが繰り広げられる。