尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

ハチはなぜ大量死したのか

2011年08月14日 20時53分07秒 | 〃 (さまざまな本)
 R・ジェイコブセン「ハチはなぜ大量死したのか」(文春文庫)。アメリカのサイエンス・ノンフィクション。2年前に出て評判になったけど、読んでなかった。7月新刊の文庫本。

 「2007年の春までに、北半球から四分の一のハチが消えた。巣箱に残されたのは女王蜂と蜂蜜のみ。その集団死はやがて農業に大打撃を与えていく。電磁波? ウィルス? 農薬? 科学者達の原因追究の果てに見えてきたものは? 著者は単行本発行後の2009年来日。日本でも失踪したハチを取材(新章書き下ろし)。解説:福岡伸一」裏表紙の紹介を書き写したけど、買わずにいられませんよね。ミステリアスな展開、日本に関する書き下ろし、「解説:福岡伸一」というのも嬉しい。福岡さんの本を読んできた人なら、この解説だけで単行本を持ってても買うかもしれません。

 実は「ミツバチの羽音と地球の回転」という記録映画がミツバチの話だと勝手に思い込んでいて、福島へ行く新幹線に持ってったわけ。でも、見たらミツバチが出てこない映画でした。最近、食に関するドキュメント映画が多いけど、きっとミツバチの映像を撮っている人もいるんではないか。この本を読んだら、ミツバチのミステリーを是非映像化したくなった。でも、アメリカのミステリーやノンフィクションによくあるんだけど、この本も読んでも読んでも終わらない。超ど級の著者のエネルギーに圧倒されます。簡単に読めそうで、けっこう時間がかかる。長い付録までついてます。

 でも読んで良かった。これはとても考えさせられる本です。ダニか、ウィルスか、それともという追跡の果てに見えてきたものは、巨大産業と化したアメリカ農業のとんでもない実情。その中で働く、ミツバチのなんという過労状態。免疫力低下の実態。つまり新型ウィルスや感染症などが人間社会でも大流行することがあるけど、それら一つ一つも問題だけど、実際は様々なストレスで生命力の低下が生じているという背後の問題があるわけです。だから人間社会の構造の変革なくしてハチも救われない。

 ミツバチほど人間にとっても花にとっても共同利益をもたらす昆虫はないということで、改めて蜂蜜の大切さを思い知ったです。ハチが媒介しないと果実は実らない。野菜もならない。稲のような風媒花もあるけど、世界のフルーツのほとんどはハチが受粉させてるそうです。農薬でハチがいなくなった中国では人力で受粉させてるところもあるという話。果物がない、花がない世界。ミツバチがいなくなるとそうなる。

 しかし、最後に出てくるニホンミツバチの話は救い。日本でもセイヨウミツバチは大変みたいだけど、ニホンミツバチという在来種はダニにも強い。銀座ミツバチ・プロジェクトは名前はもちろん知ってますが、これがニホンミツバチで頑張っている。著者は日本で銀座蜂蜜に接して、今までに食べたもっとも美味しい蜂蜜の一つと言ってます。蜂蜜が嫌いな人はまあいないと思うんだけど、最近は中国産(これがかなり怪しい)に押されて日本産の蜂蜜が高くて、なかなか買えない。でも、じゃあ、メープルシロップにすればいい(メープルも大好きだけど)という話じゃなくて、ミツバチがいなくなれば文明が滅びるということがよくわかりました。ちなみにウナギがヨーロッパでは絶滅寸前という話だけど、アジアでも激減している。こっちも心配。
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