尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

大野更紗「困ってる人」

2011年08月07日 23時36分47秒 | 〃 (さまざまな本)
 本年屈指の本間違いなく面白い。心揺さぶられる。かつてない「難病」書。壮絶なる「究極のエンタメ・ノンフィクション」。必読。多くのところで話題になっているようですが、僕も一読、これは書いておかなくてはと思いました。上智大学大学院でビルマ難民の研究、支援活動をしていた女性が、突然原因不明の難病になる。その壮絶な闘病記。大野更紗「困ってる人」(ポプラ社)はとりあえずそんな本。

 まず、この人は「ビルマ難民」の支援活動を半端じゃなくしてた人で、その時の活動ぶりがすごい。タイ、ビルマ国境の難民キャンプに乗り込んでいくのだが、その辺は本で。しかも、生地は原発事故避難地域すぐ近くの山奥の限界集落(「ムーミン谷」と呼ぶ)で、そこから進学校の女子高に進学し全国一の合唱部で活動する。この大学以前もかなりすごい。そこから上智でフランス語、そこからさらにビルマ難民支援と一直線で、難病以前も濃い人生なのだ。その後、タイで調子が悪くなり、なんとか帰って、診断を求めて、病院をさすらう。ここも大変。結局「自己免疫疾患」で、前に書いた森まゆみさんの「原田病」もそっち系だが、この「自分の免疫機構がおかしくなる」というのは、本質的に「自分とは何か」という問いを自分に突きつけるような根源的な病だ。結局ついた病名は「筋膜炎脂肪織炎症候群」という読むのも大変な病気だった。

 ある「病院」にたどりつき、そこで入院(ゆえに、ここは「オアシス」と呼ぶ)、そこでの検査、ステロイド投与の治療、これでもかこれでもかと上には上、下には下、奥には奥、と世界の深さは果てしないことを思い知らされる。が、ついに「おしり」が崩壊、「おしり有袋類」となる。これ、わからないでしょ。本を是非読んでほしいが、あまりにも悲惨ですごい。が、悪いけど(悪くないけど)爆笑ものである。そのあとは、医療、社会福祉の谷間に落ち込みながら、必死に生きていくわけだけど、軽妙洒脱(けいみょうしゃだつ)な文章で書かれているけど、日本と言う国を自己認識するときに大切なことがいっぱい書かれている。つまり、日本が難民に冷たい国だと「発見」して驚いた著者は、日本が「難病者」に冷たい制度に満ち満ちていることにも驚く。なってみないとわからないことは多いのだ。

 冗舌なる口語体で一気読みできるけど、そこが油断ならない。自己客観化の仕掛けでもあるけど、人間は親や家族が一番描きにくい。そこで実の両親は「ムーミン」(なぜかフグスマ弁をしゃべるムーミン)にしてしまい、第二の親である医者も「クマ先生」「パパ先生」などとネーミングしてしまう。親にあたる人との関係を書くのは大変だと思うけど、この人は自分の体験がすごすぎて、それを書きたい気持ちが強いから、そういう手で軽々と乗り越えてしまった。そこは感心なんだけど、自分のことを「現代っ子だから、ほめられると伸びるタイプ」なんて軽く書いてしまう。これはいけません。

 現在は退院して都内某所で生存中とのこと。近況はブログで見ることができる。かなりあちこちで「作家」として活躍中。開沼博さんと大野更紗さんの、福島出身院生対談なんて企画もあった。(行けなかったが。)二人ともちょっと前まで全然知らなかった人なわけだが。さて、で次は開沼博の本に取り掛かる。

*追記
 「困ってる人」が売れているようです。本屋に積んであるから。それにつれて、ブログのこの記事も毎日30人位が読んでくれる日が多くなっています。このブログは、もともと「教員免許更新制」に反対するために開設しましたが、いろいろと記事を書いています。もしよかったら、「ブログ開設半年の総まとめ①」「ブログ開設半年の総まとめ②」「ブログ開設半年の総まとめ③」を見て、他の記事も見て頂けるとありがたいなと思っています。
★さらに追伸。「コメント」を入れてくれた人がいます。どんなコメントも歓迎です。「なんで?」ってあるからすぐに応えてもいいんだけど、僕が書いてしまう前に誰か思うことがあれば書き込んでくれるとうれしいです。そのうち、僕も書きたいと思いますが。

追記2
 追記を書いた後で、「ほめられると伸びるタイプだから問題」を書いています。(2011.10.20)ここに書き込むのを忘れていたのですが。「困ってる人」という素晴らしい本に関する話の中では、本質に関わる問題ではありません。スピン・オフなので、この後自分でコメントを書いてオシマイにしたいと思っています。(2012.2.10)
コメント (8)
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