神保町シアターで、宝塚出身の女優が出た映画を特集上映している。そこで宝塚映画「女の学校」(1955、佐伯幸三監督)という映画を見た。映画としてそれほど傑作ということではないけれど、珍しい映画なので簡単に書いておきたい。
宝塚の女優を高校生役にキャスティングして作った娯楽映画である。大林清という直木賞候補になった娯楽作家の原作。撮影が岡崎宏三。宝塚映画は、1951年に阪急が全面的に資本を出して作った映画会社である。東宝争議の影響で東宝作品が少なかったために作られたが、1968年に製作中止。小津の「小早川家の秋」や成瀬の「放浪記」はここの作品である。だから、現役タカラジェンヌがたくさん出ているわけだ。脇役に水谷八重子(初代)、細川ちか子、藤原釜足(「きよしこの夜」を歌うシーンがある)など芸達者が出ている。
主演は寿美花代(1932~)。1963年に高島忠夫と結婚して退団するまでずっと宝塚にいたから、現代映画の主役はあまりないと思う。実に美しく、若い女教師役を生き生きと演じている。神戸の女学校桜台女学園に、東京の音大を出た寿美が赴任する。同僚の鶴田浩二(理科担当で、実験動物がのモルモットの飼い方を研究している)が迎えに出たはずが…。鶴田浩二は後に東映のヤクザ映画で記憶されるようになるが、若いときは大アイドルスターだった。松竹でデビュー後、東宝など各社で主役をやっている。寿美は音楽の授業と同時に舎監も頼まれ、寮に住み込み生徒の面倒を見る。
この学校は宝塚音楽学校ではないが、音楽や劇の場面が多い。最初の授業で寿美が皆の実力が知りたいというくらいだから、「音楽科」なのか。最初に呼ばれた相沢雪子が流麗なピアノ演奏(ショパン)を披露する。これが扇千景(1934~)で、中村扇雀(現坂田藤十郎)と結婚して57年に退団する。後の参議院議長の貴重な映像である。続いて、志賀富子が呼ばれて歌を歌うと言う。では伴奏は私がと寿美がピアノに向かい、ジャズも巧みに弾く。この富子役が雪村いづみ(1937~)。宝塚ではないが当時若き人気スターで、魅力全開で若さが弾けている。寿美先生は人気の鶴田浩二先生と親しそうなので、女子生徒はちょっと複雑だった感じだが、この伴奏で生徒の心をつかんでしまう。
生徒の姉役で淀かほる、鳳八千代、生徒役で浦路洋子、環三千世らの現役タカラジェンヌが出ている。環三千世が演じる生島弥生子という生徒は鶴田に憧れていたので、寿美が来てから何だかつまらない。姉(鳳八千代)が洋裁店の店で後援者の男に迫られケガして入院してしまい、学校に来なくなって姉の友人の勤めるキャバレーに勤め始める。これを聞きつけた雪村が先生に相談し、寿美、藤原、鶴田の教師と雪村がキャバレーに乗り込む。乱闘になってしまい、新聞カメラマンが鶴田を撮影し新聞に載ってしまう。理事会で鶴田を首にせよと迫る後援会長が、生島の姉に言い寄ってケガをさせた当人である。その辺りが一番のドラマになっている。
一方、芸大を目指す生徒が2人、相沢雪子(扇千景)と大友宗子(浦路洋子)。宗子の不得意なベートーヴェンが課題曲となり、二人の間にすきま風が…。そこを取り持つ富子(雪村)。雪子は先生の特訓を受け芸大に臨むが、健康に問題があり試験終了後に倒れてしまう。盲目の姉がいて妹の合格を待ち望んでいたが…。と展開は全く通俗そのものなんだけど、実際に歌や演奏ができる若い美女が演じているので、かなり気持ちよく見ることができる。
そして最後に卒業式。芸大にトップで合格しながら亡くなった雪子に代わり、宗子が答辞を読む。雪子には卒業証書が出され、富子に手を引かれた盲目の姉が受け取る。問題生徒はいないし、多少の葛藤はあるけど、皆うまく行く。だからこれは「学校のリアル」を描いている映画ではない。なんと恵まれた女子高生かと思うが、「太陽族」と同時代でもある。見ていて気持ちがいいのは、生徒のリーダーとしての雪村いづみの魅力。皆を心配し、いろいろ手配し、手をつくす。明るくて能力もあり、人望が篤い。こういう明るい女子生徒のリーダーが一人いると、クラスは全然違ってくる。新任の寿美花代のクラス運営がうまく行くのは、(教師の権威が確立していた時代の「良い学校」の話であるが)雪村いづみ(富子)がクラスにいて協力してくれるからである。
亡くなっている生徒に卒業証書を出すという卒業式シーンも良かった。それに近い出来事にぶつかることも教員人生にはあるだろう。ほんものの卒業証書は渡せないので、たぶん「公印を押していない」ものを渡すことになるのだろう。家族からすれば「墓前に捧げる」ものが欲しい。寿美花代の魅力と雪村いづみ、扇千景の若き日の姿が印象的。その後の3人の実人生を想いながら、見るわけである。
宝塚の女優を高校生役にキャスティングして作った娯楽映画である。大林清という直木賞候補になった娯楽作家の原作。撮影が岡崎宏三。宝塚映画は、1951年に阪急が全面的に資本を出して作った映画会社である。東宝争議の影響で東宝作品が少なかったために作られたが、1968年に製作中止。小津の「小早川家の秋」や成瀬の「放浪記」はここの作品である。だから、現役タカラジェンヌがたくさん出ているわけだ。脇役に水谷八重子(初代)、細川ちか子、藤原釜足(「きよしこの夜」を歌うシーンがある)など芸達者が出ている。
主演は寿美花代(1932~)。1963年に高島忠夫と結婚して退団するまでずっと宝塚にいたから、現代映画の主役はあまりないと思う。実に美しく、若い女教師役を生き生きと演じている。神戸の女学校桜台女学園に、東京の音大を出た寿美が赴任する。同僚の鶴田浩二(理科担当で、実験動物がのモルモットの飼い方を研究している)が迎えに出たはずが…。鶴田浩二は後に東映のヤクザ映画で記憶されるようになるが、若いときは大アイドルスターだった。松竹でデビュー後、東宝など各社で主役をやっている。寿美は音楽の授業と同時に舎監も頼まれ、寮に住み込み生徒の面倒を見る。
この学校は宝塚音楽学校ではないが、音楽や劇の場面が多い。最初の授業で寿美が皆の実力が知りたいというくらいだから、「音楽科」なのか。最初に呼ばれた相沢雪子が流麗なピアノ演奏(ショパン)を披露する。これが扇千景(1934~)で、中村扇雀(現坂田藤十郎)と結婚して57年に退団する。後の参議院議長の貴重な映像である。続いて、志賀富子が呼ばれて歌を歌うと言う。では伴奏は私がと寿美がピアノに向かい、ジャズも巧みに弾く。この富子役が雪村いづみ(1937~)。宝塚ではないが当時若き人気スターで、魅力全開で若さが弾けている。寿美先生は人気の鶴田浩二先生と親しそうなので、女子生徒はちょっと複雑だった感じだが、この伴奏で生徒の心をつかんでしまう。
生徒の姉役で淀かほる、鳳八千代、生徒役で浦路洋子、環三千世らの現役タカラジェンヌが出ている。環三千世が演じる生島弥生子という生徒は鶴田に憧れていたので、寿美が来てから何だかつまらない。姉(鳳八千代)が洋裁店の店で後援者の男に迫られケガして入院してしまい、学校に来なくなって姉の友人の勤めるキャバレーに勤め始める。これを聞きつけた雪村が先生に相談し、寿美、藤原、鶴田の教師と雪村がキャバレーに乗り込む。乱闘になってしまい、新聞カメラマンが鶴田を撮影し新聞に載ってしまう。理事会で鶴田を首にせよと迫る後援会長が、生島の姉に言い寄ってケガをさせた当人である。その辺りが一番のドラマになっている。
一方、芸大を目指す生徒が2人、相沢雪子(扇千景)と大友宗子(浦路洋子)。宗子の不得意なベートーヴェンが課題曲となり、二人の間にすきま風が…。そこを取り持つ富子(雪村)。雪子は先生の特訓を受け芸大に臨むが、健康に問題があり試験終了後に倒れてしまう。盲目の姉がいて妹の合格を待ち望んでいたが…。と展開は全く通俗そのものなんだけど、実際に歌や演奏ができる若い美女が演じているので、かなり気持ちよく見ることができる。
そして最後に卒業式。芸大にトップで合格しながら亡くなった雪子に代わり、宗子が答辞を読む。雪子には卒業証書が出され、富子に手を引かれた盲目の姉が受け取る。問題生徒はいないし、多少の葛藤はあるけど、皆うまく行く。だからこれは「学校のリアル」を描いている映画ではない。なんと恵まれた女子高生かと思うが、「太陽族」と同時代でもある。見ていて気持ちがいいのは、生徒のリーダーとしての雪村いづみの魅力。皆を心配し、いろいろ手配し、手をつくす。明るくて能力もあり、人望が篤い。こういう明るい女子生徒のリーダーが一人いると、クラスは全然違ってくる。新任の寿美花代のクラス運営がうまく行くのは、(教師の権威が確立していた時代の「良い学校」の話であるが)雪村いづみ(富子)がクラスにいて協力してくれるからである。
亡くなっている生徒に卒業証書を出すという卒業式シーンも良かった。それに近い出来事にぶつかることも教員人生にはあるだろう。ほんものの卒業証書は渡せないので、たぶん「公印を押していない」ものを渡すことになるのだろう。家族からすれば「墓前に捧げる」ものが欲しい。寿美花代の魅力と雪村いづみ、扇千景の若き日の姿が印象的。その後の3人の実人生を想いながら、見るわけである。