尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

高校野球とアジア大会

2018年09月03日 22時54分34秒 | 社会(世の中の出来事)
 この夏一番活躍した高校生と言ったら、間違いなく競泳の池江璃花子(いけえ・りかこ)だろう。何しろアジア大会で金メダル6個を獲得し、大会のMVPにも女子選手として初めて選出された。水泳も含めてアジア大会にはずいぶん多くの高校生世代も出ていた。新種目のスケートボードでは男女で金メダルを取っている。そういうことは日本でも大きく報道はされていたが、アジア大会より高校野球の方が大きな扱いだった気がする。NHKで中継しないし。
 
 高校野球というか、夏に甲子園球場で行われる「全国高等学校野球選手権大会」は2018年に第100回大会が行われた。ということになっているが、これはある種のフィクションである。「高校野球」は1948年の30回大会からで、それ以前は「中等学校優勝野球大会」である。つまり最初は旧制中学の大会で、戦後の教育改革で新制高校が誕生してからが「高校野球」になる。選手の年代としては大体同じだけど、戦後の断絶を無視して同じように数えていていいのかなと思う。

 僕は中高生の頃はかなり熱心に高校野球を見ていた。まあテレビでやるスポーツ中継が、プロ野球と大相撲と高校野球(とプロレス)ぐらいだった時代だ。「中京大中京」(95年から)とか「龍谷大平安」(08年から)なんて言われると違和感がある世代である。しかしそのうちあまり見なくなった。時間的にも昼間だから見にくいが、それだけではない。同じ時期に高校総体(インターハイ)もあるし、文化部の大会である「高校総合文化祭」(総文祭)もある。みんな一生懸命やってるのに、なんで野球ばかりテレビで一日中やるの? とつい思ってしまうのである。

 それとNHKではニュースで熱中症に気をつけよ、不要不急の外出は避けよと声を大にして呼びかけているのに、次の画面では猛暑の中で試合と応援をしている高校生をたたえている。どうなってるんだろうと思うのは、主催者の朝日新聞も同様。部活の問題性を記事では検証しているのに、甲子園では何も変わらない。(まあ準決勝前に一日休養日を取るようにはなったけど。)「大人は言ってることとやってることが違う」と教えるのも大事な教育だとは思うけど、いい加減何か考えるべき時ではないだろうか。この問題はもっと書けるけど、今は提起だけで。

 朝日新聞はバスケ選手の「ジャカルタ買春」を見つけたようだけど、全体的にはアジア大会の報道が少ない。甲子園の記事が3面ぐらいあって、アジア大会の記事は1面ぐらい。主要競技以外は共同電で記録を載せるだけが多かった印象だ。まあ営業的に高校野球に頼らざるを得ないんだろうけど、記者の手も取られて地方記事が手薄になる。でも「近隣諸国との親善」というタテマエからももっと大きく扱ってもいい。ニュースの視点も「東京五輪の前哨戦」と言うばかりで、五輪にないアジア独自のスポーツはほとんど無視されている。

 国別のメダル獲得数も朝日は7位の台湾までしか載せてない。メダル数だけにこだわるわけではないけど、基本情報だからなぜ載せないのか不思議。今回は南北朝鮮が「コリア」として統一チームで参加した競技があった。金1、銀1、銅2を獲得したが、これは伝えるべき情報だろう。中国、日本、韓国に次いでインドネシアが31個の金メダルを獲得した。「プンチャック・シラット」という東南アジアの武道が採用されて、インドネシアが14個の金を獲得した。それは大きいけど、それを抜きにしても10個以上の金メダルを獲得したわけだ。

 ヴェトナムが財政難で返上した大会をインドネシアが引き受けて、いろいろと不具合もあったようだが一応成功させた。メダル数も金銀銅合わせて98個にもなったんだから、ジョコ大統領も再選に向け得点になっただろう。インドネシアの政治的、経済的重要性から、この点も見ておかないといけない。ASEANにおけるインドネシアの大国ぶりもはっきりしてきた。イラン台湾北朝鮮カタールなど外交上の諸問題もあるが、ずいぶん活躍している。ウズベキスタンカザフスタンがそれぞれ金メダル数で5位、9位となってるも注目される。このようにアジア各国の今後を考えるためにも、メダル数はある種の情報源となる。

 最後に池江璃花子に戻って。僕は大体が淡々とテレビを見てるんだけど、6冠がかかる最後の50メートル自由形はほんのわずかの時間だから熱中して見てしまった。瀬戸大也が「6冠取れる選手なんて、そんなにいないよ。せっかくだから取りなよ」と声を掛けたそうで、「それもそうだな」と思って頑張ったと言ってた。一昔前なら「死ぬ気で頑張れ」とか言いそうだけど、今はこんな感じなんだなと思った。事前にあったパン・パシフィック選手権(アメリカ、オーストラリア、カナダ、日本が中心)では、金メダルは100mバタフライだけ、個人種目では他に200m自由形で銀を取っている。その意味ではまだ「アジア女王」ではあっても世界は遠い。

 江戸川区の小岩四中卒業、ルネサンス亀戸に所属(今は単に「ルネサンス所属」と表記)、淑徳巣鴨高校在学とけっこう地縁があるので、注目してきた。次の五輪でどのような成果に結びつくか、今後も見て行きたいなと思う。(その後、9月4日付の朝日新聞朝刊がアジア大会の日本人選手の全記録と各国のメダル数を特集して報道している。)
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