2024年暮れにドイツのショルツ内閣が崩壊し、不信任案が可決されたことによる総選挙が2025年2月23日に行われた。CDU・CSU(キリスト教民主・社会同盟)が第一党となり、メルツ党首が新首相になる見通しである。一方、極右政党AfD(ドイツのための選択肢)が大幅に議席を増やし、第2党に躍進した。そのことは日本でもすぐに報道されたけど、具体的な議席数や得票率は大手新聞でも報道されてないと思う。トランプ政権の諸問題など他に載せる記事が多すぎるんだろう。
今までも書いてきたけど、改めてドイツの選挙制度を説明しておきたい。ドイツは「小選挙区比例代表併用制」を取っていて、これは日本の「小選挙区比例代表並立制」とは違っている。基本的には比例代表で議席数が決まるが、小選挙区で当選した人は自動的に議席が与えられて、その結果「超過議席」が生じて毎回議席数が異なっていた。本来の議席数は598なんだけど、2017年は709,2021年は736という具合である。さすがにこれは困るという声が高くなり、今回から「630議席」に固定された。その代わり、小選挙区当選者でも比例代表当選者が少ないと落選になるかもという話。また戦前の反省から少数政党の台頭を防ぐため「5%条項」があり、比例で全国総投票数の5%に達してないと、すべてゼロとなる。
主要政党の議席数、得票率、得票数をここ3回ほど見ておきたい。一番右が今回(2025年)の結果である。
①CDU・CSU(キリスト教民主・社会同盟)
17年(246議席、33%、1530万票)→21年(196議席、24.1%、1118万)→25年(208議席、28.5%、1415万)
②SPD(ドイツ社会民主党)
17年(153議席、20.5%、950万票)→21年(206議席、25.7%、1190万)→25年(120議席、16.4%、815万)
③AfD(ドイツのための選択肢)
17年(94議席、12.6%、588万票)→21年(83議席、10.4%、480万)→25年(152議席、20.3%、1032万)
④FDP(自由民主党)
17年(80議席、10.7%、500万票)→21年(92議席、11.4%、529万)→25年(0議席、4.3%、215万)
⑤左翼党
17年(69議席、9.2%、430万票)→21年(39議席、4.9%、225万)→25年(64議席、8.8%、435万)
⑥同盟90/緑の党
17年(67議席、8.9%、415万票)→21年(118議席、14.7%、680万)→25年(85議席、11.6%、576万)
2017年総選挙の順番で書いたので、その後の議席数では毎回変わっている。特に今回は5%条項により、FDPが一挙にゼロ議席となった。ショルツ政権崩壊の引き金を引いたのはFDPだったので、結果的には大失敗である。もともとFDPは財政規律に厳しい党で、SPD、緑の党が積極財政予算を求める中で予算案を認めず連立離脱に踏み切った。しかし、その決断は有権者の支持を得られず、300万票を失って5%を割り込んだ。FDPのリントナー党首(連立崩壊まで財務相)は政界引退を表明している。
ところで、以上の議席を足してみると「629」にしかならない。残り1議席は「南シュレースヴィヒ選挙人同盟」でドイツ北部のデンマーク系住民を基盤とする政党である。少数民族代表という意味で「5%条項」の適用免除になっていて、毎回1議席を得る。さて、全議席が630だから、過半数は316。比例代表中心のドイツでは今まで単独で過半数を得た政党はない。今回も連立になるが、ドイツでは今までの歴史から、ネオナチの系譜であるAfD、東ドイツの旧与党の後継である左翼党は、「連立対象にしない」ことが不文律となっている。今回も第一党のCDU・CSUはAfDとの「右派連合」は組まないと公約している。
従って、緑の党とだけでは過半数にならないので、自動的にCDU・CSUとSPDとの「大連立」しかないのである。それだけでは不十分とみて、緑の党も加えることになるかもしれない。お互いに不満だろうけど、それしかない。SPDは政策的に右傾化しているCDU・CSUに不満である。一方、現与党をそのまま内閣に抱え込むと新味が出ないから、CDU・CSUの側もホンネでは嫌だろう。だけど、まだま極右政党を連立に加えることはドイツでは出来ない。トランプ政権発足に伴い、いつまでもグズグズ交渉している余裕はないだろう。前回は選挙からショルツ政権発足まで2ヶ月半掛かったが、今回は今月中にメルツ政権が出来るだろう。
ところで、今回はっきりしたのは、ドイツの地域分断である。上記画像で赤くなっているのが、小選挙区でAfDが勝利した地域である。ほぼ旧東ドイツ全域が右傾化しているのだ。これは統一後30年経っても東西の経済格差が大きく、不満を持つ層がトランプ支持者みたいに右派を支持している。ここまではっきりしているのは、驚き。左翼党の前回から倍増し、ドイツでも「両極分化」が激しい。なお、左翼党から分裂して出来た「ザーラ・ワーゲンクネヒト同盟」は4.97%で議席を取れなかった。左派系の反EU、親ロシアのポピュリズム政党で、党名は知名度のある女性党首から付けている。しかし、本当にギリギリである。
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