イスラエルで12年間続いていたベンヤミン・ネタニヤフ政権がついに交代した。3月23日に行われた(直近2年間で4回目の)総選挙の結果、ネタニヤフ首相の反対派が合同して「8党連立政権」が誕生して、ベネットが首相に指名された。しかし、事前報道によれば「与党連合」は62議席あったはずだが、首相の信任投票の結果は賛成60,反対59、棄権1だった。薄氷の結果である。「8党連立」なんて言うと、僕は1993年の細川政権の「8党派連立」を思い出してしまう。ベネット政権は細川政権よりも長持ちするだろうか。
(ベネット政権が成立)
他国のことではあるものの、イスラエルの政治状況は世界の中で大きな意味を持っている。また「拘束名簿式比例代表制」という、それ自体は珍しくはないけれど、完全に比例代表オンリーというある種珍しい選挙をやっている意味も考える必要がある。イスラエルではここ数年右派のリクード党首の「ネタニヤフか」、それとも「反ネタニヤフか」で国論が分裂していた。2019年4月20日、9月17日、2020年3月2日、2021年3月23日と4回も選挙が行われたが、安定政権が出来なかった。今回も第1党は30議席のリクードなのでネタニヤフが政権続投を目指したものの挫折した。
(ネタニヤフ前首相)
続いて第2党のイエシュ・アティド(未来がある=中道系、17議席)のヤイル・ラピド党首が組閣工作を行い、期限の6月2日に連立協議がまとまった。それは極右のヤミナ(7議席)党首のベネットを最初の2年間の首相とし、イスラエル政治の「禁じ手」であるアラブ政党も加えて、何とか過半数を成立させるというアクロバット的な連立である。しかし、ネタニヤフはなかなか国会を開かず、その間に連立切り崩し工作を進めた。ようやく13日に国会を開き、その結果連立政党から少し引き抜いたものの、棄権1があったためにベネット政権が信任された。
イスラエルの国会(クネセト)は全部で120議席だが、過去の選挙で過半数を得た政党が存在しない。それでは政権成立が困難になるし、現にこの2年間の政治状況は停滞と言うしかない。じゃあ、他国のように「小選挙区」にすれば良いではないかというと、それは出来ない。「ユダヤ人国家」であるとともに「民主主義制度」を取るイスラエルでは、極端な「ユダヤ教正統派」である「シャス」(9議席)や「トーラー」(7議席)、そして「宗教シオニズム」(6議席、ヤミナから分裂)などが当選出来る制度でないといけない。以上3党派はネタニヤフ支持だった。
一方、「イエシュ・アティド」(17議席)に加えて、「青と白」(8議席)が中道系。「労働党」(7議席)と「メレツ」(6議席)が左派リベラル系。かつてネタニヤフの下で外相を務めたリーベルマンが率いる右派「我が家イスラエル」(7議席)、リクードから分裂した右派「新しい希望」(6議席)、そして「ヤミナ」(7議席)は首相を出したが以前はリクードと連立していた右派。ここにアラブ系政党「ラーム」(4議席)が加わった。これでようやく62議席である。
リクードとネタニヤフ支持の宗教政党合計は52議席である。そこで何とか政策が近い右派系政党を抱きこもうとしたが、どれもネタニヤフに反発が強く成立しなかった。他にアラブ系政党「合同リスト」が6議席ある。パレスチナに住むアラブ人は、ユダヤ国家建国とともに全員が難民になったわけではない。イスラエルに残っても「二級国民」扱いされることが多いが、それでも民主国家のタテマエ上アラブ系政党の立候補を拒めない。比例代表だと10議席ぐらいを獲得するわけである。しかし、アラブ系政党には右派のベネット首相を支持できない人もいたわけだ。一方、右派の中にもアラブ系と協力して政権を作ることに抵抗があって、何人かが切り崩されたわけである。
(ネタニヤフ退陣を喜ぶ人々)
ネタニヤフはイスラエル史上最長の政権を維持してきた。1996年に一回目の政権を担ったが、1999年に労働党のバラクに敗れた。その後リクード党首もシャロンに敗れたが、2009年6月に首相に復帰した。その後、2013年、2015年の選挙にも勝って長期政権を維持していた。第1次政権時からスキャンダルが多く、現在は汚職などで起訴されている。そういう人が首相になるというのは他国では考えられない。しかし、右派的政策を強引に進めて、国民の中には熱烈な支持者がいる。「ビビ」という愛称で呼ばれて人気もあるが、反対派から見れば政策的にも人格的にも受け入れがたい。これはドナルド・トランプや安倍晋三に似ている。
この間もガザ攻撃や世界に先駆けてのワクチン接種など、何とか続投狙いの政策を進めていた。しかし、反ネタニヤフの方が優先するという議員の方が多かった。とはいえ、政策的にこれほどかけ離れた「呉越同舟」を絵に描いたような連立も世界史上に珍しい。明日にも崩壊してもおかしくないが、逆に揉めそうなことは何も手に付けず、ワクチン接種を生かして経済再建のみを手掛けたら案外支持が高くなるかもしれない。2年後にはヤピド首相への交代が予定されているので、とにかく2年間持たせるのが目標だ。有利なのは、ネタニヤフがトランプに近すぎたため、バイデン政権がベネット政権に親和的になるだろうことだ。さて、どうなるだろう。
(ベネット政権が成立)
他国のことではあるものの、イスラエルの政治状況は世界の中で大きな意味を持っている。また「拘束名簿式比例代表制」という、それ自体は珍しくはないけれど、完全に比例代表オンリーというある種珍しい選挙をやっている意味も考える必要がある。イスラエルではここ数年右派のリクード党首の「ネタニヤフか」、それとも「反ネタニヤフか」で国論が分裂していた。2019年4月20日、9月17日、2020年3月2日、2021年3月23日と4回も選挙が行われたが、安定政権が出来なかった。今回も第1党は30議席のリクードなのでネタニヤフが政権続投を目指したものの挫折した。
(ネタニヤフ前首相)
続いて第2党のイエシュ・アティド(未来がある=中道系、17議席)のヤイル・ラピド党首が組閣工作を行い、期限の6月2日に連立協議がまとまった。それは極右のヤミナ(7議席)党首のベネットを最初の2年間の首相とし、イスラエル政治の「禁じ手」であるアラブ政党も加えて、何とか過半数を成立させるというアクロバット的な連立である。しかし、ネタニヤフはなかなか国会を開かず、その間に連立切り崩し工作を進めた。ようやく13日に国会を開き、その結果連立政党から少し引き抜いたものの、棄権1があったためにベネット政権が信任された。
イスラエルの国会(クネセト)は全部で120議席だが、過去の選挙で過半数を得た政党が存在しない。それでは政権成立が困難になるし、現にこの2年間の政治状況は停滞と言うしかない。じゃあ、他国のように「小選挙区」にすれば良いではないかというと、それは出来ない。「ユダヤ人国家」であるとともに「民主主義制度」を取るイスラエルでは、極端な「ユダヤ教正統派」である「シャス」(9議席)や「トーラー」(7議席)、そして「宗教シオニズム」(6議席、ヤミナから分裂)などが当選出来る制度でないといけない。以上3党派はネタニヤフ支持だった。
一方、「イエシュ・アティド」(17議席)に加えて、「青と白」(8議席)が中道系。「労働党」(7議席)と「メレツ」(6議席)が左派リベラル系。かつてネタニヤフの下で外相を務めたリーベルマンが率いる右派「我が家イスラエル」(7議席)、リクードから分裂した右派「新しい希望」(6議席)、そして「ヤミナ」(7議席)は首相を出したが以前はリクードと連立していた右派。ここにアラブ系政党「ラーム」(4議席)が加わった。これでようやく62議席である。
リクードとネタニヤフ支持の宗教政党合計は52議席である。そこで何とか政策が近い右派系政党を抱きこもうとしたが、どれもネタニヤフに反発が強く成立しなかった。他にアラブ系政党「合同リスト」が6議席ある。パレスチナに住むアラブ人は、ユダヤ国家建国とともに全員が難民になったわけではない。イスラエルに残っても「二級国民」扱いされることが多いが、それでも民主国家のタテマエ上アラブ系政党の立候補を拒めない。比例代表だと10議席ぐらいを獲得するわけである。しかし、アラブ系政党には右派のベネット首相を支持できない人もいたわけだ。一方、右派の中にもアラブ系と協力して政権を作ることに抵抗があって、何人かが切り崩されたわけである。
(ネタニヤフ退陣を喜ぶ人々)
ネタニヤフはイスラエル史上最長の政権を維持してきた。1996年に一回目の政権を担ったが、1999年に労働党のバラクに敗れた。その後リクード党首もシャロンに敗れたが、2009年6月に首相に復帰した。その後、2013年、2015年の選挙にも勝って長期政権を維持していた。第1次政権時からスキャンダルが多く、現在は汚職などで起訴されている。そういう人が首相になるというのは他国では考えられない。しかし、右派的政策を強引に進めて、国民の中には熱烈な支持者がいる。「ビビ」という愛称で呼ばれて人気もあるが、反対派から見れば政策的にも人格的にも受け入れがたい。これはドナルド・トランプや安倍晋三に似ている。
この間もガザ攻撃や世界に先駆けてのワクチン接種など、何とか続投狙いの政策を進めていた。しかし、反ネタニヤフの方が優先するという議員の方が多かった。とはいえ、政策的にこれほどかけ離れた「呉越同舟」を絵に描いたような連立も世界史上に珍しい。明日にも崩壊してもおかしくないが、逆に揉めそうなことは何も手に付けず、ワクチン接種を生かして経済再建のみを手掛けたら案外支持が高くなるかもしれない。2年後にはヤピド首相への交代が予定されているので、とにかく2年間持たせるのが目標だ。有利なのは、ネタニヤフがトランプに近すぎたため、バイデン政権がベネット政権に親和的になるだろうことだ。さて、どうなるだろう。