朝比奈なを『進路格差』(朝日新書)を読んだ。2022年11月30日付で刊行された本で、非常に重大な問題を突きつけてくる。朝比奈氏は公立高校教員を退職後、大学の非常勤講師、教育相談などに携わってきた。同じ朝日新書にある『ルポ教育困難校』『教員という仕事』を読んだ感想は前に書いた。どちらも学校現場のリアルを追い、日本社会の現状を鋭く追求した本だった。
そして次に出した本が、この『進路格差』である。いやあ、やっぱりここに来たか。書いちゃったのか。書かれちゃったなあという本である。公立高校の教員は異動があるから、様々なタイプの高校を経験することが多い。そうすると、様々な進路活動を指導するわけである。だから、よほど恵まれた学校ばかり渡り歩いた教員は別として、ここで書かれている内容自体は実体験として大体知っていると思う。だが、「卒業させれば終わり」というか、その先はあえて考えないでいるのではないか。
卒業生の何人かはその後も学校に来て、在校生向けの「進路ガイダンス」に参加してくれたり、部活動の指導に来る生徒もいる。進学校の場合、4年目になると「教育実習」で母校に戻ってくる生徒もいる。そういう生徒の存在はある意味、教師の醍醐味でもある。だけど、中堅校以下だと、いつの間にかもう辞めてしまったという声が聞こえてくる生徒がいる。どうなってしまったか消息不明の生徒も多い。就職生徒の中には、すぐに長時間残業やパワハラに悩むことも多い。
(高校生の進路)
たがそれだけでなく、会社の仕事を任されてもうまく働けない、大学や専門学校の求める学力に付いていけない。また集団で働いたり、大学という場で自ら学ぶ資質に欠けていて、精神的に大変になるケースもかなり聞く。そういう話は高校教師を長く続けていれば、皆が知っている。世の中には教師もどこにあるんだかよく知らない学校が多い。何を学ぶんだかよく判らないカタカナばかりの学部、その方面の勉強をしても果たして就職できるんだろうかという専門学校。でも生徒が行きたいと望めば、そして家庭が学費を負担できる(または奨学金を申請できる)なら、行かせることになるだろう。
それは「進路未定」で卒業させたくないからである。中には正社員より稼げるアルバイトもある。お金を貯めて、夢にチャレンジしたいという生徒もいる。むげに「フリーター」を否定できるものではないが、学校の立場(進学率や就職率を上げたい)を離れても、「進路がなかなか決まらない」タイプの生徒は、「新卒」で勝負できる時を逃せば、正社員での就職や高等教育を受ける機会を一生逃してしまうかもしれない。教師がプッシュして、「ダメモト」かもしれないけれど、何とか進路を決めて卒業させたいのである。
だけど、高校教員は専門学校の現場を知らない。大学を出ないと教員免許が取れないんだから、教師は全員大学卒なのである。(養護教諭など、専門学校卒業で得られる資格もある。)もちろん、高卒で就職した人もいない。知らずに進路先に送っているけど、送られた側の会社や専門学校はどう考えているのか。関係者の取材を続けながら、この本には現場のリアルな感想が書かれている。それは多くの人には衝撃かもしれない。だけど、教師の立場からすれば、大体思っていたとおりである。
(専門学校の種類と学生数)
特に重要だと思ったのは、専門学校の話。高校教員の多くも、知らないことが多いだろう。看護、保育、理容・美容、調理・製菓など、長年の実績がある専門学校にいく生徒は何人も見てきた。特に看護系などは、ひょっとしたら中堅大学並みの学力が求められることが多い。そういうところとは卒業生も行っていて関係も深い学校が多い。しかし、最近増えているアニメ、声優、IT(情報処理)、スポーツ系などは、実際どんなことをしていて卒業後にどんな進路があるのか。教員も良く知らないだろう。本書には多くのデータが掲載されていて、すぐ進路学習やホームルームで役に立つと思う。
それにしても、「基礎学力」もなく、「基本的生活習慣」も身につかず、あいさつなど最低限の「コミュニケーション能力」もないのに、「高卒」という資格で送り込まれてくる。企業は不良品を市場に出すことは出来ないのに、教師は現場で役立たない「人材」を卒業させても、給料が変わらない。ある人がそう指摘しているが、何とも返す言葉がない思いがする。ただ…、と小声で言いたいこともあるだろう。高校は中学から、中学は小学校から、そして結局は家庭から子どもたちがやって来る。
厳しく「査定」すれば、単位を認定できない生徒を「留年」させて何になるのか。それは無業者、引きこもり、あるいは犯罪予備軍を世の中に送り出すだけではないのか。特に「教育困難校」で働く教員は社会防衛の最前線で戦っている。しかし、教育行政は公立の中堅校以下は全く支援しない。むしろ、私立高校への就学援助を増やして、税金は貧困層が学ぶ公立「底辺校」に回らない。それなのに文科省は現実を知ってか知らずか(いや、もちろん知っているのだが)、「アクティブ・ラーニング」などと掛け声をかける。そういう日本の社会と政治の現実をこの本がよく教えてくれる。
教師のみならず、全国民必読だと思うけど、まあそんなことはあり得ない。教員、特に中学、高校の教員には是非読んで欲しい。そして、次には「私立学校」と「中退者」の問題が残されていると思う。私立学校は大学進学実績、またはスポーツ大会実績が高い学校以外は、ほとんど注目されない。もちろん私立にも中堅校以下の学校もあり、何とか進路、スポーツで実績を上げようと中学から推薦で生徒を集めるが、入ってからうまく行かなかった生徒はどんどん公立の定時制高校に落ちてくる。何人もそういう生徒がいたのである。また大変な高校ほど、どうしても「中退」を出すことになるが、その後どうなっているのか。学校としても追跡するのが難しく、どこにもデータがないと思う。僕も気になる生徒はいるのだが、今や生徒の名簿もないから、どうしようもない。
そして次に出した本が、この『進路格差』である。いやあ、やっぱりここに来たか。書いちゃったのか。書かれちゃったなあという本である。公立高校の教員は異動があるから、様々なタイプの高校を経験することが多い。そうすると、様々な進路活動を指導するわけである。だから、よほど恵まれた学校ばかり渡り歩いた教員は別として、ここで書かれている内容自体は実体験として大体知っていると思う。だが、「卒業させれば終わり」というか、その先はあえて考えないでいるのではないか。
卒業生の何人かはその後も学校に来て、在校生向けの「進路ガイダンス」に参加してくれたり、部活動の指導に来る生徒もいる。進学校の場合、4年目になると「教育実習」で母校に戻ってくる生徒もいる。そういう生徒の存在はある意味、教師の醍醐味でもある。だけど、中堅校以下だと、いつの間にかもう辞めてしまったという声が聞こえてくる生徒がいる。どうなってしまったか消息不明の生徒も多い。就職生徒の中には、すぐに長時間残業やパワハラに悩むことも多い。
(高校生の進路)
たがそれだけでなく、会社の仕事を任されてもうまく働けない、大学や専門学校の求める学力に付いていけない。また集団で働いたり、大学という場で自ら学ぶ資質に欠けていて、精神的に大変になるケースもかなり聞く。そういう話は高校教師を長く続けていれば、皆が知っている。世の中には教師もどこにあるんだかよく知らない学校が多い。何を学ぶんだかよく判らないカタカナばかりの学部、その方面の勉強をしても果たして就職できるんだろうかという専門学校。でも生徒が行きたいと望めば、そして家庭が学費を負担できる(または奨学金を申請できる)なら、行かせることになるだろう。
それは「進路未定」で卒業させたくないからである。中には正社員より稼げるアルバイトもある。お金を貯めて、夢にチャレンジしたいという生徒もいる。むげに「フリーター」を否定できるものではないが、学校の立場(進学率や就職率を上げたい)を離れても、「進路がなかなか決まらない」タイプの生徒は、「新卒」で勝負できる時を逃せば、正社員での就職や高等教育を受ける機会を一生逃してしまうかもしれない。教師がプッシュして、「ダメモト」かもしれないけれど、何とか進路を決めて卒業させたいのである。
だけど、高校教員は専門学校の現場を知らない。大学を出ないと教員免許が取れないんだから、教師は全員大学卒なのである。(養護教諭など、専門学校卒業で得られる資格もある。)もちろん、高卒で就職した人もいない。知らずに進路先に送っているけど、送られた側の会社や専門学校はどう考えているのか。関係者の取材を続けながら、この本には現場のリアルな感想が書かれている。それは多くの人には衝撃かもしれない。だけど、教師の立場からすれば、大体思っていたとおりである。
(専門学校の種類と学生数)
特に重要だと思ったのは、専門学校の話。高校教員の多くも、知らないことが多いだろう。看護、保育、理容・美容、調理・製菓など、長年の実績がある専門学校にいく生徒は何人も見てきた。特に看護系などは、ひょっとしたら中堅大学並みの学力が求められることが多い。そういうところとは卒業生も行っていて関係も深い学校が多い。しかし、最近増えているアニメ、声優、IT(情報処理)、スポーツ系などは、実際どんなことをしていて卒業後にどんな進路があるのか。教員も良く知らないだろう。本書には多くのデータが掲載されていて、すぐ進路学習やホームルームで役に立つと思う。
それにしても、「基礎学力」もなく、「基本的生活習慣」も身につかず、あいさつなど最低限の「コミュニケーション能力」もないのに、「高卒」という資格で送り込まれてくる。企業は不良品を市場に出すことは出来ないのに、教師は現場で役立たない「人材」を卒業させても、給料が変わらない。ある人がそう指摘しているが、何とも返す言葉がない思いがする。ただ…、と小声で言いたいこともあるだろう。高校は中学から、中学は小学校から、そして結局は家庭から子どもたちがやって来る。
厳しく「査定」すれば、単位を認定できない生徒を「留年」させて何になるのか。それは無業者、引きこもり、あるいは犯罪予備軍を世の中に送り出すだけではないのか。特に「教育困難校」で働く教員は社会防衛の最前線で戦っている。しかし、教育行政は公立の中堅校以下は全く支援しない。むしろ、私立高校への就学援助を増やして、税金は貧困層が学ぶ公立「底辺校」に回らない。それなのに文科省は現実を知ってか知らずか(いや、もちろん知っているのだが)、「アクティブ・ラーニング」などと掛け声をかける。そういう日本の社会と政治の現実をこの本がよく教えてくれる。
教師のみならず、全国民必読だと思うけど、まあそんなことはあり得ない。教員、特に中学、高校の教員には是非読んで欲しい。そして、次には「私立学校」と「中退者」の問題が残されていると思う。私立学校は大学進学実績、またはスポーツ大会実績が高い学校以外は、ほとんど注目されない。もちろん私立にも中堅校以下の学校もあり、何とか進路、スポーツで実績を上げようと中学から推薦で生徒を集めるが、入ってからうまく行かなかった生徒はどんどん公立の定時制高校に落ちてくる。何人もそういう生徒がいたのである。また大変な高校ほど、どうしても「中退」を出すことになるが、その後どうなっているのか。学校としても追跡するのが難しく、どこにもデータがないと思う。僕も気になる生徒はいるのだが、今や生徒の名簿もないから、どうしようもない。