ロシアのウクライナ侵攻から1年近く経って、マスコミの報道も多くなってきた。前から何回かまとめて考える必要があると思っていたが、書きたいことに追われて延び延びになっていた。そろそろ書かないといけないだろう。この「ウクライナ戦争」(ここではそのように呼びたい)は、世界の秩序を大きく変えてしまった。その影響は未だはっきりと見えないことも多い。まず書かないといけないのは、しばらく「戦争は終わらない」という冷厳なる現実である。
最近ブラジル大統領に返り咲いたルラ氏がアメリカを訪問して、バイデン大統領と首脳会談を行った。ルラ氏はアメリカでCNNのインタビューに答えて「もし武器や弾薬を(ウクライナに)送れば、戦争に参加したことになる」と語ったという。しかし、僕はこの発言が理解できない。ロシアとウクライナの軍事的、経済的、人口的規模は、「非対称」である。ロシアが圧倒的に大きいのだから、ウクライナに軍事的支援を行わなければ、ロシアが最終的に勝利するのは目に見えている。だから、ウクライナに軍事支援を行わないということも、ロシア寄りで「戦争に参加した」ことになる。
(ルラ大統領の訪米を伝えるニュース)
「ロシアの最終的勝利」が何を意味するかは、現段階では僕にはよく判らない。ただ、ロシアはウクライナの東南部4州(ルハンスク、ドネツク、ザポリージャ、ヘルソン)を2022年9月に「併合」した。これは各州の「住民投票」を受けて、ロシア最高会議が承認した、ロシアから見れば合法的な措置になる。しかしながら、現時点でドネツク州やザポリージャ州のほぼ半分はウクライナの支配下に残されている。これはロシアから見れば、「ウクライナが不当に支配している未解放のロシア領土」になるはずだ。
(ロシアは4州の「併合」を宣言)
もちろんウクライナ側からすれば、4州は不当に侵略された自国領土以外の何物でもない。双方の認識には両立する余地が全くない。もちろん戦争はロシア側が仕掛けたものだから、ロシアが攻撃を中止して撤退すれば戦争は終結する。しかし、北方領土交渉で言われたように、ロシア憲法は領土割譲を禁止している。「領土の一部を譲渡しようとする行為及びそのような事態を発生させる行為は認めない」と規定され、政府がそのような交渉の場に就くこと自体を禁じているとのことである。国際法に対する憲法優先の原則を定めた第 79 条もあるという。
従って、常識的に考えれば、プーチン大統領が4州を「返還」することは不可能だし、それどころか「和平交渉」に応じることさえ不可能である。プーチンが「返還」を口にすれば、国内の強硬派に足をすくわれるだろう。「プーチン以外に交渉可能な者はなく、プーチンの政治生命を保証して、停戦を実現するしかない」というような主張する人もいるが、僕に言わせればそれは無理というもんだ。プーチンはウクライナ各地を無差別にミサイル攻撃を行った「戦争犯罪者」のイメージをもはや免れられない。ウクライナを支援する側も、国内世論上安易に妥協はできないだろう。
ところで、この問題は本来どのように解決されるべきだったか。国連加盟国が他の加盟国から全面的攻撃を受けた。国連発足後に、ほとんど起こらなかった事態である。(起こっても短期間で軍事衝突が終了したことが多い。)本来は安全保障理事会が責任を持って解決を探り、経済制裁等で解決を目指す。しかし、それで解決できなかった場合は、軍事的手段を排除しない。最後は「国連軍」を結成して、紛争を解決することになる。ただ、戦後の軍事的衝突の大部分は「米ソ冷戦」時代に起こった。なぜかソ連が欠席を続けていたときに起こった朝鮮戦争(1950年)を除き、国連軍は結成されなかった。
今回は拒否権を持つロシアが他国を侵攻したのだから、当然国連軍や(1991年の湾岸戦争時のような)「多国籍軍」も結成できない。それどころか、直接軍隊を送るなど共同軍事行動を行うと「第三次世界大戦」につながりかねないとして、NATO各国も武器支援に止まっている。世の中には、ウクライナに武器支援を続けるから戦争が長引くのであって、「まず停戦を」と論じる人がいる。だけど、ウクライナの「自決権」を全く無視するような議論には疑問がある。自国領土を占領されたままの状態で「停戦」してしまったら、国土を取り戻せなくなるのは目に見えている。(ロシアが交渉で領土を返還することは憲法上できない。)
(ミュンヘン安全保障会議)
ロシアの侵攻を正しいものと考える人が今も日本に存在する。アメリカなどによって、ウクライナがロシアから引き離されたのが真の原因だと考えるのである。しかし、このような考え方は全く間違っている。ウクライナがロシアと結ぶか、西欧諸国入りを目指すか、それはウクライナ国民が決める問題だ。そして、ウクライナ国民はロシアに支配された歴史を否定したいと考えている。従って、ロシアと妥協してウクライナ領土の一部を譲り渡すことはありえないだろう。
それらを考えると、戦争がまだまだ続くと予想せざるを得ない。ロシア経済は少なくとも数年間は崩壊などしないと思われる。ウクライナに支援軍を送ることは難しいから、支援国はそれぞれのできる範囲で武器を支援することことになる。それは戦争を延ばしウクライナ、ロシア双方に大きな犠牲をもたらす。ロシア国内で、大きな反戦運動が起きるのも現段階では考えにくい。我々としては、それがどれほど効果を上げるかはともかくとして、「ロシアはウクライナから撤退せよ」と言い続けるしかないと思う。半世紀前に「アメリカはヴェトナムから手を引け」とデモをしたのと同じように。
最近ブラジル大統領に返り咲いたルラ氏がアメリカを訪問して、バイデン大統領と首脳会談を行った。ルラ氏はアメリカでCNNのインタビューに答えて「もし武器や弾薬を(ウクライナに)送れば、戦争に参加したことになる」と語ったという。しかし、僕はこの発言が理解できない。ロシアとウクライナの軍事的、経済的、人口的規模は、「非対称」である。ロシアが圧倒的に大きいのだから、ウクライナに軍事的支援を行わなければ、ロシアが最終的に勝利するのは目に見えている。だから、ウクライナに軍事支援を行わないということも、ロシア寄りで「戦争に参加した」ことになる。
(ルラ大統領の訪米を伝えるニュース)
「ロシアの最終的勝利」が何を意味するかは、現段階では僕にはよく判らない。ただ、ロシアはウクライナの東南部4州(ルハンスク、ドネツク、ザポリージャ、ヘルソン)を2022年9月に「併合」した。これは各州の「住民投票」を受けて、ロシア最高会議が承認した、ロシアから見れば合法的な措置になる。しかしながら、現時点でドネツク州やザポリージャ州のほぼ半分はウクライナの支配下に残されている。これはロシアから見れば、「ウクライナが不当に支配している未解放のロシア領土」になるはずだ。
(ロシアは4州の「併合」を宣言)
もちろんウクライナ側からすれば、4州は不当に侵略された自国領土以外の何物でもない。双方の認識には両立する余地が全くない。もちろん戦争はロシア側が仕掛けたものだから、ロシアが攻撃を中止して撤退すれば戦争は終結する。しかし、北方領土交渉で言われたように、ロシア憲法は領土割譲を禁止している。「領土の一部を譲渡しようとする行為及びそのような事態を発生させる行為は認めない」と規定され、政府がそのような交渉の場に就くこと自体を禁じているとのことである。国際法に対する憲法優先の原則を定めた第 79 条もあるという。
従って、常識的に考えれば、プーチン大統領が4州を「返還」することは不可能だし、それどころか「和平交渉」に応じることさえ不可能である。プーチンが「返還」を口にすれば、国内の強硬派に足をすくわれるだろう。「プーチン以外に交渉可能な者はなく、プーチンの政治生命を保証して、停戦を実現するしかない」というような主張する人もいるが、僕に言わせればそれは無理というもんだ。プーチンはウクライナ各地を無差別にミサイル攻撃を行った「戦争犯罪者」のイメージをもはや免れられない。ウクライナを支援する側も、国内世論上安易に妥協はできないだろう。
ところで、この問題は本来どのように解決されるべきだったか。国連加盟国が他の加盟国から全面的攻撃を受けた。国連発足後に、ほとんど起こらなかった事態である。(起こっても短期間で軍事衝突が終了したことが多い。)本来は安全保障理事会が責任を持って解決を探り、経済制裁等で解決を目指す。しかし、それで解決できなかった場合は、軍事的手段を排除しない。最後は「国連軍」を結成して、紛争を解決することになる。ただ、戦後の軍事的衝突の大部分は「米ソ冷戦」時代に起こった。なぜかソ連が欠席を続けていたときに起こった朝鮮戦争(1950年)を除き、国連軍は結成されなかった。
今回は拒否権を持つロシアが他国を侵攻したのだから、当然国連軍や(1991年の湾岸戦争時のような)「多国籍軍」も結成できない。それどころか、直接軍隊を送るなど共同軍事行動を行うと「第三次世界大戦」につながりかねないとして、NATO各国も武器支援に止まっている。世の中には、ウクライナに武器支援を続けるから戦争が長引くのであって、「まず停戦を」と論じる人がいる。だけど、ウクライナの「自決権」を全く無視するような議論には疑問がある。自国領土を占領されたままの状態で「停戦」してしまったら、国土を取り戻せなくなるのは目に見えている。(ロシアが交渉で領土を返還することは憲法上できない。)
(ミュンヘン安全保障会議)
ロシアの侵攻を正しいものと考える人が今も日本に存在する。アメリカなどによって、ウクライナがロシアから引き離されたのが真の原因だと考えるのである。しかし、このような考え方は全く間違っている。ウクライナがロシアと結ぶか、西欧諸国入りを目指すか、それはウクライナ国民が決める問題だ。そして、ウクライナ国民はロシアに支配された歴史を否定したいと考えている。従って、ロシアと妥協してウクライナ領土の一部を譲り渡すことはありえないだろう。
それらを考えると、戦争がまだまだ続くと予想せざるを得ない。ロシア経済は少なくとも数年間は崩壊などしないと思われる。ウクライナに支援軍を送ることは難しいから、支援国はそれぞれのできる範囲で武器を支援することことになる。それは戦争を延ばしウクライナ、ロシア双方に大きな犠牲をもたらす。ロシア国内で、大きな反戦運動が起きるのも現段階では考えにくい。我々としては、それがどれほど効果を上げるかはともかくとして、「ロシアはウクライナから撤退せよ」と言い続けるしかないと思う。半世紀前に「アメリカはヴェトナムから手を引け」とデモをしたのと同じように。