尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

映画『クロース』、心震える少年時代の悲劇

2023年08月01日 22時35分13秒 |  〃  (新作外国映画)
 関東地方は7月いっぱい猛暑日が連続していた。今日(8月1日)、ようやく「夕立」(夕方じゃなかったけど)があって、一気に10度ぐらい気温が下がった。しかし、明日はまた猛暑だとか。最近更新が一日おきになってる。母親関係の様々な事務手続きに忙しいが、それ以上に猛暑で脳が働かない。いくら何でも体温越えの気温が一週間以上も続くと堪える。

 見田宗介著作集を読んで考えたことはもっともっとあるのだが、暑すぎて気持ちが切れてしまったので2回で一端中断する。そこで最近見た中で一番心に触れた映画、ベルギーのルーカス・ドン監督『CLOSE/クロース』について書きたい。これは2022年のカンヌ映画祭グランプリを獲得している。グランプリと言うけど、実際は第2席である。クレール・ドゥニ監督『Stars at Noon』(未公開)と共同受賞だった。最高賞(パルムドール)の『逆転のトライアングル』と比べて、感動するのは明らかにこっち。

 この映画は多くの人から是枝裕和監督の『怪物』と比較されて論じられている。確かに似た部分もあるのだが、映画の方向性はむしろ逆と言っても良い。(製作経緯から両者に直接の影響関係はない。)『怪物』は子どもたちの世界を中心にしながらも、大人たちの様々な状況も見つめて、複合的な世界を探る映画である。一方、『CLOSE/クロース』は親や教師も出て来るけれど、ほとんど2人の子どもたちに密着している。フランスの花農家の次男レオは、幼なじみのレミと夏休み中いつも一緒に遊んでいた。この二人の関係性が「学校」が始まって子どもたちの世界の残酷さに触れることで崩壊していく。
(レオ=右、レミ=左)
 秋になって、中学校に行くようになる。二人がずっと仲良くしているのを見て、周りの女子が「二人は付き合ってるの」と聞いてくる。レオはそんなことはないと答えて、新しい友だちに誘われアイスホッケーのチームに入ったりする。スケートは出来たので、何とかついていけて上手だと誉められる。レミとの「幼かった時期」を抜けて、スポーツでつながれた「男の世界」に入りつつあるのか。しかし、レミは急に邪険にされた思いで、寂しいし不満もあるらしい。そして、悲劇がやってくるのである。
(農園でのレオとレミ)
 これは「セクシャル・マイノリティの物語」なのだろうか。そうも言えるし、そうじゃないのかもしれないと思う。監督のルーカス・ドンは1991年生まれの若い監督で、前作『Girl/ガール』(2018)に続く第2作である。前作はカンヌ映画祭「ある視点」部門で新人監督賞を受けたが、同時にクィアパルム賞も受けた。バレエをしているトランスジェンダーの少女が主人公で、こっちは紛れもなくセクシャル・マイノリティの映画だったのだろう。(見逃しているので、内容の評価は出来ない。)
(来日したルーカス・ドン監督)
 だけど、今回の『CLOSE/クロース』は、むしろ思春期の心の揺れに密着した映画とも思える。二人は仲良しだが、それが同性愛的なものなのかは本人にも判らないかもしれない。まだ性的自認が確立されていない時期では、異性にも同性にも強いつながりを感じることがあると思う。そういう感情を自分も持っていたという人も少なくないのではないか。ただ彼らを追いつめたのは、明らかに「クラスの中のまなざし」だった。そしてレオは「少年だけの世界」に所属したいと望んだ。二人の気持ちが良く判りすぎて、見ていてドキドキして心が痛い。カメラはずっとレオを中心に密着している。僕はこの映画は傑作だと思ったが、かなり見るのがつらい映画でもある。でも是非見て欲しい映画。
コメント
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