尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

ネイマールのサウジアラビア移籍問題

2023年08月22日 23時18分19秒 |  〃  (国際問題)
 2023年夏も猛暑の中過ぎていく。夏の高校野球大会も後は23日の決勝を残すのみ。世界大会としては、福岡の世界水泳、オーストラリア・ニュージーランド共催の女子サッカー・ワールドカップが終わり、現在ブダペストで世界陸上が開催されている。これからバスケットボール・ワールドカップが日本(沖縄)、フィリピン、インドネシアで始まり、9月にはラグビー・ワールドカップがフランスで行われる。見る側も大変だけど、まあ全部強い関心があるわけでもない。

 この間野球やサッカーのリーグ戦も続いている。日本では主に米国メジャーリーグでの日本人選手、特に大谷翔平のニュースが毎日大きく報道される。ヨーロッパではサッカーのリーグが始まり、イギリスのブライトンに所属する三笘薫選手がドリブルで何人も抜いて決めたゴールは凄かった。何でも地元メディアの「世界最高の左ウインガーランキング」で、三笘がネイマールを上回ったとか。さて、日本人選手の活躍を書きたいのではなく、問題はこのネイマールの去就の方である。
(ネイマールとアリ・ヒラル会長)
 ブラジル代表のネイマール(31歳)は、ブラジルのサントス、スペインのバルセロナで活躍し、2017年にパリ・サンジェルマンに移籍した。その時も驚いたわけだが、2023年には何とサウジアラビアアル・ヒラルに移籍したのである。調べてみると、確かにアル・ヒラルはサウジの名門クラブである。2022年度のアジア・チャンピオンズリーグでは、浦和レッズが優勝し、アル・ヒラルは準優勝だった。2019年、2021年にはアル・ヒラルが優勝し、ここ10年ほどで4回準優勝している。それ以前にも2回優勝していて、過去4回優勝はアジアトップ。日本や韓国のクラブを押えて、アジアで最高のサッカーチームと言ってもよいようだ。
(サウジ国旗のクリスティアーノ・ロナウド)
 移籍金は2年契約で「9千万ユーロ+出来高」と言われ、日本円では年俸239億円と報道されている。もちろんネイマールがどういう選択をしようが、それは自由である。だけど、他にも超有名選手がサウジアラビアに集結している。ポルトガルのクリスティアーノ・ロナウド(38歳)は、2022年からサウジのアル・ナスルに所属している。フランスのカリム・ベンゼマ(35歳)も2023年からサウジのアル・イステマに移籍した。またカタール・ワールドカップで4強になったモロッコのGKボノがアル・ヒラルに移籍し、他にもブラジルやイングランド、セネガル、コートジボワールなどの代表もサウジに集まっている。
(サウジに移籍したベンゼマ)
 どんな選手が移籍したか、僕もいま調べてこんなに集めているのかと改めて驚いた。「アル・ヒラル」「アル・ナスル」「アル・イステマ」など、みんな「アル」が最初に付いている。これは定冠詞で、英語の「the」にあたる。「アラー」「アルカリ」「アルコール」などのアルである。ヒラルは三日月、ナスルは勝利、イステマは統一とか連合とか、要するに英語のユニオンだという。これはサウジアラビアのクラブチームが全部載ってるウィキペディアのページがあって、それを調べたら載ってたのである。

 何でこんなに世界の強豪を集めているかというと、要するにお金があるわけだ。原油生産を王族が独占していて、サッカーチームも金持ちの王族が所有しているということだろう。詳しくは知らないけど、実質的なオーナーが富豪王族だというのは間違いない。しかし、それだけでなくムハンマド皇太子の「改革路線」のサッカーにおける現れなのである。皇太子はいずれ来る石油枯渇を見越して、アラブの盟主たるサウジの位置を確固たるものにするため、大胆な「開国政策」を取ってきた。
(ムハンマド皇太子)
 しかし、絶対王政という基本は変更しない。今どき世界のどこに、国会もない、だから選挙もない国があるか。国会も選挙も形骸化している国はいっぱいあるけど、ここでは「そもそもない」のである。僕は2017年6月に皇太子が交代したときに「サウジアラビアの皇太子交代問題」を書いて、その時からサウジの変化に関心を持ってきた。2018年10月に、サウジアラビアのジャーナリスト、カショギ氏がトルコで殺害された事件では、皇太子の関与が疑われ「ムハンマド皇太子の関与は?-カショギ事件続報②」を書いた。結局ムハンマド皇太子の「人権意識」なき「上からの改革」には、危険性があると僕は認識している。

 政治とサッカーは違うものだけど、このような人権レベルの低い国に有力選手が移籍するのは問題じゃないだろうか。サッカーの試合を女性が見られるようになったのも、2018年からである。これもムハンマド改革の一つであり、長い目で見るべきだという人もあるだろう。だが、今回の女子ワールドカップでは、アジア予選に出場もしていない。弱くて敗退したのではない。エントリーしたのに、事情があって辞退したのでもない。そもそも予選に出て来ない。男子はワールドカップ6回出場の有力国なのに、女子サッカーは屋内でのみ細々と認められているのだという。「ジェンダー平等」の観点から、サウジアラビアのサッカー協会には問題があり、移籍した有力選手はこの問題を見逃してはいけないと思う。

 最近サウジアラビアとイスラエルが和平交渉を進めていると言われる。また長年対立関係にあるイランとの関係に一定の改善が図られている。ウクライナ戦争のさなか、世界のエネルギー確保の観点から最重要国の一つであるサウジアラビアの動向は目が離せない。サッカーのことを書きたかったのではなく、とにかくサウジに注目せよというのが僕の論点である。サッカー有力選手をこれだけ集めれば、国内リーグは盛り上がるだろう。典型的な「パンとサーカス」政策ではないかと思う。
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