アメリカ大統領選挙について、そろそろ書いておきたい。と思って、昨日の夜に書く予定が、なんとインターネット環境の不調により書けなくなってしまった。画像は見えているのに字だけが全く見えなくなってしまうという怪現象。こういうときのために入っていたサポートを受けて、ようやく先ほど修復されたのである。昨日ぐらいから急に寒くなって、そう言えばちょうど去年の今頃(11.11)に突然入院してから1年だなあと思い出した。今年は何とか乗り切りたいものだ。
今年はアメリカ大統領選挙について、ほとんど書かなかった。一回民主党副大統領候補ティム・ウォルズについて書いたことがあるだけである。ちょうど日本の総選挙と時期が重なったこともあるが、どうもトランプが勝ちそうだなどと書いて、当たっても楽しくない。自分に投票権があれば、カマラ・ハリスに入れたんだろうけど、直前の調査報道などを見ればトランプ有利なのではないかと判断していた。それにハリスが勝つ可能性は絶無ではないと思っていたが、上院選は確実に共和党が勝利しそうだった。(実際に過半数の52議席を確保している。未定2。)下院は共和=212、民主=200で、過半数218に共和党が迫っている。
カマラ・ハリスはなぜ負けたのか? 2016年には「有利」と言われたヒラリー・クリントンがトランプに負けた。2024年は「接戦」と言われていたから、常識的に推理すればトランプ優勢と見るべきだ。ヒラリー・クリントンはオバマ政権(第1期)で国務長官を務め、一般的には「実績を挙げた」と評された。カマラ・ハリスはバイデン政権の副大統領として、一般的には「期待外れ」と評されていた。実績ある「白人女性」が敗北した大統領選で、「有色女性」ならより不利になるはずである。
しかし、そのことは民主党内であまり議論されたとは言えない。人種、性別要因で政治を語ると「レイシスト」「セクシスト」と言われかねない。だが、アメリカ国民が本当に「アフリカ系、アジア系の女性」を大統領に選ぶのだろうか。もちろん大多数は構わないと答えるだろう。しかし、激戦州は数万票で差が付くこともありうる。(実際にミシガン、ウィスコンシン、ネバダは数万票の差である。)数万人の保守男性の票が結果を左右しかねない情勢なのは「現実」である。そういう問題を表立って語れなくなってしまい、ハリス本人も「女性初の大統領」を封印した選挙戦になった。
結果的に民主党は20年ぶりに「総得票数」でも共和党に負けることになった。ここまで民主党が惨敗するとは予測されてなかった。それはなぜかと考えれば、まず「国際経済的要因」を挙げないといけない。つまり、激しいインフレ、物価上昇による生活難である。今年選挙が行われたG7の日本、イギリス、フランス、アメリカではすべて与党が敗北した。米大統領選の結果が判明した6日にはドイツのショルツ連立政権でもFDP(自由民主党)が離脱し、来年早々の繰り上げ総選挙が避けられない情勢。選挙では社会民主党の敗北が確実視されている。カナダのトルドー政権も弱体化していて、近々総選挙がありそうな情勢である。
日本で行われた総選挙では、立憲民主党が議席を大幅に増やしたが、先に見たように比例票はほぼ同じだった。自民党が大きく票を減らしたことで、野党議席が増えたのである。ではイギリスの事情も見てみたい。2021年の総選挙では、保守党がおよそ1400万票、労働党が1027万票だった。それが2024年の総選挙では、保守党が半分以下の680万票に激減、労働党も970万票だった。実は労働党も票を減らしていたのに、保守党が減りすぎたために労働党政権が成立したのである。
じゃあ、アメリカ大統領選ではどうだっただろうか。周知のようにアメリカ大統領選は「選挙人」の争奪で行われる。しかし、ここでは全米規模の総得票数を見てみたい。(なお米国選挙は州ごとに独自の決まりがあり、確定までに時間が掛かる。選挙当日消印の郵便投票を有効にしている州もあり、また外国駐留米兵など在外米国人の郵送投票が遅れて到着する場合もある。)
2016年 共和党(ドナルド・トランプ) 約6300万票 民主党(ヒラリー・クリントン) 約6600万票
2020年 共和党(ドナルド・トランプ) 約7422万票 民主党(ジョー・バイデン) 約8130万票
2024年 共和党(ドナルド・トランプ) 約7400万票 民主党(カマラ・ハリス) 約7025万票
これを見れば判るように、結果はまだ未確定(アリゾナ州分があるので、まだ両者とも増える)だが、ドナルド・トランプの票は前回に比べて大幅に増えたわけではない。(7500万票には達しそうだが。)一方、民主党は1千万票を減らしている。ニューヨーク州やカリフォルニア州は圧倒的に民主党が有利だが、今回はある程度共和党が迫っている。優勢な時は6割を越えるのに今回は50%台なのである。どうせ勝つんだからと「消極的民主党支持者」が離れたということが考えられる。
日本、イギリスで与党が敗北したのは、その国特有の事情がある、同じようにアメリカにはアメリカの事情があり、「カマラ・ハリス要因」や「民主党要因」がある。しかし、現職モディ首相が圧勝と言われたインドでも、思いがけぬモディ政権与党が単独過半数割れするという意外な(日本と同じような)結果となった。それぞれ固有の事情がありながらも、今年の選挙ではどの国も与党が苦戦という共通点がある。それは同じような原因が存在すると考えるべきではないか。
ロシアやベネズエラみたいにインチキ選挙をするなら別だが、2024年に自由な選挙を行えた国では、皆与党が苦戦し政権交代が起こった国も多かった。それはこの数年間にコロナ禍、ウクライナ戦争、中東情勢悪化による激しい世界的インフレーション、物価高が起こったからだと思う。しかも現代の経済構造ではインフレになると、従来以上に「格差拡大」が起きる。生活難を実感する人々は与党に入れたいとは思わないだろう。これが基調として存在し、世界的な政権党苦戦が起こったと思われる。
もちろんトランプ政権になったとしても、経済は一挙に好転しない。独特な言い回しでデータを恣意的に利用するかもしれないが、トランプ政権も同じように経済に苦しむはずだ。その結果、2026年の「中間選挙」では民主党が健闘し、2028年大統領選へ向けた動きも始まるだろう。取りあえず国際的要因を書いたが、もちろんアメリカ独自の要因の方が大きいだろう。