尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

足立区議選の結果、「自民党激減」をどう考えるか

2023年05月26日 23時19分49秒 |  〃  (選挙)
 2023年5月21日に、足立区長選足立区議選が行われた。全国的には4月に行われた統一地方選だが、何で足立区では5月なのか。一応簡単に解説しておくと、1996年の区長選で保守陣営が分裂し、旧足立区庁舎跡地問題も揉めていたため、共産党推薦候補(吉田万三)が当選したことがあった。少数与党のため区政運営に苦労が続き、1999年(統一地方選の年)に区議会による区長不信任案可決、議会解散、選挙後の議会での再度の不信任案可決と続き、以後の選挙は4年ごとに5月に行われるようになったのである。

 僕は一応毎回選挙には行くが、足立区議会選には今までは全国的な意味合いはほとんどなかった。前回は旧「NHK党」候補が居住要件を満たさずに、得票ゼロになったという件を書いた。しかし、全体的な結果については書いたことがない。しかし、今回は書いてみたいと思う。「4月の傾向の持続性」という意味で、検討する意味がある。およそ4つの問題点が考えられる。「維新の好調は続くか」「共産の退潮は見られるか」「公明の全員当選はなるか」、そして「女性候補が何人当選するか」である。

 足立区というのは、東京23区の東北部にあって埼玉県、千葉県に接している。よく「下町」と言われたりするが、最大の繁華街である北千住は、日光街道の最初の宿場町である。つまり、本来は江戸ではなく「郊外」なのである。高度成長以前は農業地帯で、その後住宅地になっていった。組織労働者がいる大工場は昔は少しあったが、今は移転してしまった。だから、社会党、民主党系の勢力はずっと弱小である。旧農地の地主は地域の有力者になり、地域代表として保守系大勢力になった。開発された住宅地は都内では地価が安いので、低所得層(および外国人)が多い。そのため組織政党である公明党、共産党が昔から強い。

 大体そんな政治風土なのだが、今回は全45議席のところに64人も立った。結果は自民党が17人から12人へ5人減、代わりに公明党13人全員当選で第一党になった。共産党は前回7人から6人へ1議席減、立憲民主党3議席で変わらず。日本維新の会は前回ゼロ(候補1人)から一挙に3人当選。国民民主党は1議席で変わらず。れいわ新選組参政党がそれぞれ1議席獲得。都民ファーストの会は1議席で変わらず。無所属は4人が当選した。(1人は都民ファースト推薦。)
(和田愛子前議員)
 ところで、以上の数は開票時のものである。その後、立憲民主党から当選した新人、和田愛子が偽ブランドを転売していたとして罰金判決を受けていたことが発覚し、議員を辞職した。選挙から3ヶ月以内に欠員が生じた場合、地方議会では次点が繰り上がる決まりになっている。次点は自民現職だったので、結局自民党、公明党が13人で同数になる見込み。女性候補は15人が当選した(が1人辞任で結局14人)。前回は11人だったから、やはり増えているのである。特に当選者45人中上位20位を見てみると、半数の10人が女性だった。やはり女性候補の優勢という傾向ははっきりしている。

 ところで、自民党前議員17人はなんと全員男性である。今回自民党は現職16人と新人3人の計19人(全員男)が立候補して、現職12人(繰り上げを入れて)と新人1人が当選した。つまり、現職4人が落選したわけで、和田議員辞職がなければ現職5人の落選だった。ちなみに、「LGBT差別発言」として全国的に問題になった白石正輝氏も40位で再選されている。前回と投票率はほぼ変わらず、その中で自民党は1万票を減らした。なお、今回調べるまで足立区議会の自民議員が全員男だとは知らなかった。とんでもない地域だなあと改めて実感した。
 
 前回票との差は東京新聞に掲載された記事から引用するが、それによると公明党は前回より3656票を減らしたが、うまく票割りして全員が当選した。練馬区議選では4人が次点以下に並び、全国で12人が落選して衝撃を与えた。公明党は固い支持票を上手に票割りして、落ちる選挙はしない。自民、立民が12人落選するのとは、持っている意味が違うのである。もともと足立区は公明党の地盤が強いけれど、今回は非常に力を入れていることは傍目でも判った。公明新聞の記事が画像で見つかったので示しておく。その意味では成功したわけだが、やはり票は減らしているのである。当選ラインは約3千票なので、実は1議席分の票を減らしていた。
(全員当選を目指す公明党)
 共産党は8人立候補して、6人当選。1議席減、票数では5774票減である。票割りが上手く行き、50位に滑り込んだが、それでも2人の現職が落選した。自民、公明、共産、立民で、約2万票の減である。それに対し、維新(1万3156票増)、れいわ(4501票)、参政(3654票)で、その他国民民主、都民ファースト、無所属などいろいろあるが、大体の票の動きは辻褄が合う。

 ここで判ることは、もともと「革新系浮動票」が少ない足立区で、維新や参政党が議席を獲得したのは「保守系浮動票」が流れているのである。先の国政補欠選で立憲民主党が不振だったことから、何か立民、共産の不調で維新が伸びたように思っている人も多いと思う。そういう地域もあるかもしれないけれど、保守票が強い地域では維新は自民票を浸蝕して勝つということだ。今回維新の女性候補は全体3位で当選した。れいわも女性。公明、共産も上位当選には女性候補が多い。候補に女性が一人もいないという自民党が減らすのも当然だ。この結果を見る限り、「野党は弱い」「維新が伸びても自民を助けてくれる存在」などと安易に思い込んで解散するのは、自民党にとっては危険かもしれない。次は大田区の都議補選に要注目である。
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