尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

「教員不足」問題①ー氏岡真弓『先生が足りない』を読む①

2023年05月28日 21時58分12秒 |  〃 (教育行政)
 「教員不足」という問題がよく聞かれるようになった。それはどういう問題なのか、原因は何なのかといったテーマで数回書きたいと思う。このテーマに関しては、最近朝日新聞編集委員の氏岡真弓氏の『先生が足りない』(岩波書店)という本が出版された。氏岡氏はこの問題を先駆的に取り上げてきたが、最初は全く反響がなかったという。最近は文科省が全国調査を行うほど重大な問題になってきたが、現場感覚と「真の原因」とは少し違っていると思われる。

 氏岡氏は4月5日付朝日新聞「教育の小径」というコラムに「新しい担任の先生がいない」という記事を書いている。「首都圏の小学6年生」が4月になって教室に行くと、そこにいたのは担任の先生ではなく教頭だった。「教頭」と書いてあるから、これは東京都ではないんだろう。担任になるはずの教員が産休に入ったが、その後の代替教員が見つからず、それまで教頭が担任を務めるとある。「3年前の春のことだった」という。そういうことが最近はあちこちで起こっているというのである。

 東京都では、今年度の公立小学校の場合、4月7日時点で「約80人」が欠員で、前年同期より30人増えているという。文科省調査では2021年度に全国で1218人の欠員があった。東京では公立中の欠員は数人、公立高・特別支援学校ではほとんどいないという。全国的にも同様なのかは不明だが、「先生が足りない」というのは、まず「小学校で起きている」のであり、さらに「非正規教員が充足出来ない」という問題なのである。だから、なかなか認識されにくかったのである。
(氏岡真弓氏)
 もっとも今は「非正規教員」の不足に止まっているが、それだけで済むかは判らない。現在小学校の一クラス35人定員が段階的に進められ、小学4年生まで進んでいる。ところが今年度になって、山口県、沖縄県が生徒数の上限を引き上げたというのである。沖縄では小1~2は30人、小3~中3は35人という独自措置を取ってきたが、教員採用試験受験者が減って少人数教育が難しいという。山口県では中学2、3年の生徒吸うの上限を35人から38人に引き上げる。教員採用試験の受験者減で教員確保が難しいからという。以上は東京新聞3月5日付記事によるものだが、このように各県独自に進めていた少人数教育が難しくなりつつある。

 それでは、このような「教員不足」はなぜ起こっているのだろうか。学校の労働条件から敬遠されているのか。そういう問題もあるだろうけど、現場的にはちょっと違った問題がある。まず、「団塊の世代」の大量退職である。ベビーブーマーは、自身の成長とともに経済も成長した世代で、20代を迎えた頃に大都市圏で学校増設が相次ぎ、第二次ベビーブーム世代が学校に行く80年代に掛けて、教員の大量採用が続いた。それらの世代が2010年前頃から60歳定年を続々と迎えたのである。

 だから2010年前後は比較的新規採用が多かったのである。小学校は半数以上が女性教員である。その頃採用された女性教員が30歳前後を迎えて、出産期を迎えているのである。そのため産休、育休の代替教員の需要が多くなったが、教員採用試験の倍率が落ちていて不足が生じる。今まではその年の採用試験に落ちて「教職浪人」している人が多く、そこから代替教員を見つけていたのだが、それが難しくなったのである。それに加えて、教員免許更新制の影響で中途退職者の復帰も難しくなった。

 この事情は了解出来るが、もう一つの指摘は僕は気付かなかった。それは「特別支援教育」である。特別支援教育の仕組みが整備され、発達障害などにも支援がなされるようになった。そのため小学校、中学校に特別支援学級が設置されるようになったのである。例えば本書の中にある例では、突然自閉症の生徒が転校してくることになって、特別支援学教が一つ増えたという。急には担当が見つからず、教務主任が一時兼任することになり、毎日午後11時退勤といった長時間労働を強いられた。この人は子ども2人を持つ女性教員である。

 ちょっと信じられないケースだが、それは兼務の大変さばかりではない。発達障害児のために、1人でも取り出し授業をしなければいけないのかということである。昔は発達障害という概念を誰も知らず、研修でも聞いたことがなかった。今思うと、明らかに発達障害の生徒が教室の中にいたが、そういうもんだとしか思わなかった。だから、「特別支援」するというのはとても良いことだと思うが、1人のために1クラス作るのは学校の負担が大きくなりすぎるのではないか。

 最近特別支援学級の話を時々聞いていたが、そういうことだったのかと初めて理解出来たように思う。この仕組みを維持するためには、もっと予算を増やして(教育予算とは別枠で)、担当者を養成していかないと学校がパンクするのではないか。同じ学校で学ぶこと、独自の支援を行うことは大変良いわけだが、従来の仕組みでは無理が重なる。さて、現場に教員不足の原因を問うと、この2つがまず出て来るというが、もちろん問題の根底はもっと深いものがある。それは次回に。
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